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2020年8月9日
GPIFの2020年4~6月の運用成績は+8.3%―国内債券だって“安全資産”ではない
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の2020年度第1四半期(4~6月)運用状況が発表されましたので定例ウオッチです。4~6月の期間収益率+8.3%、帳簿上の運用益は+12兆4868億円でした。市場運用開始来の収益率は年率+2.97%となり、運用資産額は162兆926億円となりました。
2020年度第1四半期運用状況(速報)(GPIF)
2019年度第4四半期(1~3月)は“コロナ・ショック”の影響で大幅なマイナス収益となりましたが、その後の相場回復によって、一気に挽回した形です。まさにリスク量を一定に保ちながら“市場に居続ける”ことが長期の運用にとってどれほど重要なことかというお手本です。さらに資産別の収益率を見ると興味深いことにも気づかせてくれます。
4~6月は、まさに“コロナ・ショック”からの反動で世界的に株式市場は劇的な回復となりました。世界各国が新型コロナによる経済停滞を防ぐために空前絶後の金融緩和に踏み切ったことが大きな要因でしょう。まさに国策パワー恐るべし。こうした中、GPIFは慌てることなく基本ポートフォリオを維持してリスク量を一定にしながら運用を続けたことで、こうした相場回復の恩恵を十全に享受することができたわけです。やはり長期運用においては“市場に居続けること”がいかに重要かを教えてくれます。
また、資産別の収益率を見るのも面白いでしょう。収益を牽引したのは外国株式で+19.99%、続いて国内株式が+10.99%です。一方、安全資産とされる国内債券は-0.46%です。株価が上昇しているのだから国内債券が下落するのは当然なのですが、見逃せないのが“コロナ・ショック”を含む2019年度(19年4月~20年3月)の国内債券の収益率も-0.36%となっていることです。つまり、“コロナ・ショック”のような相場のクラッシュが発生した際に、国内債券がそのショックを和らげる緩衝材として役割が弱まっているのではないということです。
この理由ははっきりしています。日本はこれまで大胆な金融緩和を続けてきたことで国債の長期利回りはマイナス水準です。さらなるマイナス金利の深堀りも現実的には難しい状況。これは言い換えると、債券価格が上限に達しつつあるということです。こうなると、株式が暴落しても国債価格は上昇(=利回り低下)しずらく、逆に株価が上昇すると国債価格が下落(=利回り上昇)しやすい構造になっているということです。
おまけにGPIFのような超長期運用では債券を利回りや価格に応じて機動的に売買するようなことはしません。基本的に満期まで保有し、償還された資金で新しく債券を購入してロールオーバーしていくしかありません。そうなると、保有する国債の平均購入価格は上昇し、平均利回りは低下します。これもまたリターンが減少し、リスクだけが大きくなっていくという状態になります。
もちろん、現状でも国内債券は他のリスク資産に対して相関係数はマイナス(反対の値動きをする)ですから、リスク低減のための重要なアセットです。しかし、単純に“安全資産”とは言えなくなっているわけです。だから、よく年金資金で株式運用することに反対する人が「年金資金は100%国内債券で運用しろ」というのですが、これは非常に危険な考えでしょう。
例えば米国の基礎年金である退職・遺族・障害保険制度(OASDI)は日本の公的年金制度と同じ賦課方式ですが、やはり保険料(米国では社会保障税)収入と給付支出のギャップを補うために余剰資金をソーシャルセキュリティ信託基金で運用しています。これは100%国債で運用されているのですが、なんと枯渇の危機に瀕しています(少し古いレポートですが、紹介しておきます)。
米国の公的年金、ソーシャルセキュリティ 枯渇する恐れがある公的年金の信託基金(大和総研)
2013年段階の試算で2033年には基金が枯渇すると予想されているのですが、その後も米国の金利は低水準が続いていますから、恐らく枯渇する時期は速まっている可能性があります。基金が枯渇すれば、年金制度を維持するためにとれる手段は二つしかありません。保険料(社会保障税)の大幅引き上げか、受給額の大幅引き下げ。あるいは両方を実行しなければならないかもしれません。これは現代において“年金資金を100%国債で運用する”ということの現実です。
こうしたことを考えると、やはり年金運用でも株式と債券をバランスよく保有し、ポートフォリオ全体でリターンとリスクのバランスをとるしかないのです。それは非常に厳しい道のりです。しかし、世界中の年金基金がやらざるを得ないことです。GPIFも例外ではありません。そして現状ではGPIFは一定の成果を上げている。それは凡庸な成果だけれども、凡庸さを維持し続けることの価値を決して過小評価してはいけないと思う。今回、GPIFの報告を読んで、その感を一層強くしました。