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2020年8月7日
GPIFの最大の課題は債券投資
ブルームバーグの報道によると、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の2020年度第1四半期(4~6月)の運用益が四半期ベースとしては過去最高の12兆円超となったそうです。
GPIF:4‐6月期は12兆円超の運用益、株高で過去最高-関係者(ブルームバーグ)
2019年1~3月は“コロナ・ショック”で過去最大の運用損となっていたわけですが、株式市場の回復に合わせてきっちりと取り戻した形です。やはり年金運用というのは超長期運用が基本なので、短期の評価額の変動に一喜一憂しても意味がないということをよく示しています。とはいえ、GPIFの運用に課題がないわけではありません。皮肉なことに、いまやGPIFにとって最大の課題は株式ではなく債券投資なのです。
GPIFの運用に関して記事ではピクテ投信投資顧問の松元浩常務が「GPIFが今回の戻り相場をしっかり取れているのは、下がった局面でもリスクを落とさなかったから」「年金運用は本当に長い目でみないといけないことをちゃんと分かっている」とコメントしていますが、まったく同感です。やはりパッシブ運用のお手本のようなやり方が貫徹しているわけで、個人のインデックス投資家も大いに参考になるでしょう。
今回の情報はブルームバーグだけでなく共同通信も既に報じているのですが、日本の大手メディアはあいかわらず大きく報じていません。毎度のことですが、評価額が大きく減ればトップ記事、増えればベタ記事という扱いが続いており、結局のところメディアにとってGPIFの運用成績などは読者の注目を集めるための“美味しい”ゴシップとしか見ていないということでしょう。ただ、そういったゴシップ扱いを真に受けて「どうせ保険料を払っても年金はもらえない。だったら保険料を払うだけ損だ」と思い込む人が現れ、将来の無年金者や低年金受給者を生み出すとしたら罪なことです。まあ、いずれGPIFから正式発表がありますから、それをどのようにメディアが報じるのか注視したいと思います。
それよりも今回の記事で注目したいのは、やはりピクテの松元氏の「債券運用に代わる何かを見つけていかないといけないだろう」というコメントです。もともとリーマン・ショック以降の世界的な金融緩和で債券価格は極めて高水準(=低金利)となっていました。そこにコロナショックが加わり、金融緩和はさらに空前絶後の状態となっています。そんな状態で債券に投資することは、得られる金利収入がますます少なくなるにもかかわらず、債券価格下落リスクはどんどん大きくなっているということです。
こうしたことを考えると、だんだんと“債券は安全”とは言えなくなります。GPIFによる株式投資を批判する人の中には「年金資金は100%債券で運用しろ」という人がいますが、ちょっとでも債券投資の仕組みを知っている人ならびっくりする意見でしょう。ちなみにGPIFは2019年度まで基本オートフォリオにおける債券と株式の比率が60%:40%でしたが、20年度から50%:50%に変更しています。あくまで結果論ですが、絶妙のタイミングで債券比率を引き下げたことになります。
とはいえ、依然として資産の50%を債券で保有してわけですから、これを今後どうするのかは非常に頭の痛い問題です。そもそも債券をポートフォリオに組み入れる狙いはリターン向上ではなくリスク低減。そして債券のリスクが高まる一方で、それに代わるリスク低減効果を持つ資産はいまだ見つかりません。はたして“債券運用に代わる何か”は見つかるのでしょうか。非常に難しい問題だと思います。この問題の難しさに比べれば、それこそ短期的な運用損益の変動など、ほとんど問題になりません。しかし、そのことに気付いている国民はまだ少ない。これも表面的な報道の弊害かもしれません。