世界的に新型コロナウイルスの感染者拡大が続いていますが、株式市場だけ見ると“コロナ・ショック”からすっかり回復したように見え、なんとも奇妙な状況が続いています。こうした株価の上昇を牽引しているのが米国のハイテク株。新型コロナによってインターネットに代表されるハイテクが“インフラ化”した現実が鮮明になり、ハイテク株はまるでインフラ株のような“ディフェンシブ銘柄”のように考えられるようになってきました。でははたして米国ハイテク株にリスクはないのでしょうか。それは意外なところあるのかもしれません。
株式市場では米国のハイテク株への人気が集中しているのですが、それに対してちょっとした警鐘を鳴らす記事がロイターに出ています。
コラム:ハイテク大手に投資集中、ITバブルと違う形の危険性(ロイター)
ハイテク銘柄というのはグロース株の中のグロース株ですから、つねにバブル(割高)批判が繰り返されてきました。実際、過去にインターネットバブル崩壊などの際には、こうした懸念が的中したわけです。ところが現在の米国ハイテク株の隆盛は、もっと地に足がついています。記事は次のように書いています。
物語は現在、ハイテクが人々の生活を一変させ、新型コロナウイルスのパンデミックによって、仕事であろうが娯楽であろうが、オンラインを通じた活動や自動化が加速するという章に差し掛かっている。これは企業収益から確認可能だ。リフィニティブのデータに基づくと、S&P総合500種銘柄の第2・四半期利益は平均で約33%減少したのに、ハイテクセクターは小幅増益を確保した。新型コロナによる“ニューノーマル”は、ハイテク企業のビジネスをインフラ化してしまったわけです。このためハイテク銘柄のPERもそれほど高い数字になっていません。“バブル”とは言えなくなっているのです。それでは死角はないのか。ロイターの記事は「より不安なのは、「勝ち組」が一握りの銘柄に集中している状況」だと指摘し、次のように書いています。
これらの企業は検索からソフトウエアまでさまざまな分野を支配し、貴重なデータを収集することで人々の日常生活にすっかり根を下ろしている。少数の企業がこれほど大きな資金力と社会的影響力を握ることで、独占禁止法が適用されるという1つの大きな脅威が増大しつつある。現在、米国のハイテク企業、とくにアルファベット、アップル、フェイスブック、マイクロソフトの4社の圧倒的な競争力は、やはり圧倒的な寡占によってもたらされています。これは強みであると同時に、つねに独禁法適用の可能性があるというリスクとなります。新型コロナによって4社の強みは一段と鮮明になりましたが、それによって独禁法適用の可能性も高まったわけです。独禁法適用まで行かなくとも、例えば特別な規制や課税で狙い打ちされる可能性も高まったでしょう(実際に欧州ではその傾向が顕著になっています)。
米国では過去に独占禁止法によって巨大企業が分割された例があります。1870年代に米国の石油市場を独占したスタンダード・オイルは20世紀に入ると独禁法によって34の企業に分割されました。現在、大手石油企業であるエクソン・モービル、シェブロン、コノコフィリップス、BPなどは全てスタンダード・オイルの流れを汲みます。それほど米国の独占禁止法というのは厳しい。日本と違って、米国は“やるときはやる”国ですから。
こう考えると、まるで死角がなさそうな米国ハイテク株の最大のリスクは、“法務リスク”だということになります。そしてそれはハイテク企業が“インフラ化”することによってもたらされた避けられない動きかもしれません。なぜならインフラには高い公共性が求められるようになるからです。実際に、他の多くのインフラ産業では国家による様々な規制によって無制限な利潤追求に足かせがはめられている現実があります。ハイテク企業も、そういった段階に入ろうとしているのかもしれません。
だからこそ米国ハイテク株への集中投資を「まるで投資家は、わずかしかない高価なバスケットに、大量の卵を無理やり詰め込んでいるように見える」と指摘するロイターの記事は、なかなかに考えさせられました。