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2020年7月4日

GPIFの2019年度運用実績は-5.2%に―少しずつだが年金運用への理解が広がっている



年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の2019年度(19年4月~20年3月)の運用実績が発表されました。19年度は第4四半期(20年1~3月)に“コロナ・ショック”の直撃を受けたことで、収益率は-5.2%、評価額上の損失は8兆2831億円でした。詳細は業務概況書で確認できます。

「2019年度業務概況書」(GPIF)

あいかわらず収益が大幅なマイナスになったときほどメディアが大きく報じるという傾向は変わりませんが、わずかですが報道姿勢に変化があり、また運用成績に対する国民の反応も少し変わってきたように感じます。少しずつですが国民の間で年金運用に対する理解が深まっているのかもしれません。

19年度は12月までは堅調な運用が続いていましたが、“コロナ・ショック”が直撃した第4四半期だけで-10.71%(17兆7072億円)の評価損が出たことが大きく響きました。四半期ベースでは過去最大の評価損となりますから、やはり“コロナ・ショック”の大きさが分かります。ただ、それでも年度ベースでは-5.2%にとどまっているわけですから、やはり分散投資の効果は大きかったと言えるでしょう。

さらに“コロナ・ショック”による収益率を資産別に見ると面白いことが分かります。第4四半期は外国株式が-21.88%、国内株式が-17.63%となる一方、安全資産と考えられている国内債券も-0.51%となり、外国債券は+0.5%となりました。よく「年金積立金は国内債券中心で運用するべき」と主張する人がいるのですが、今回の“コロナ・ショック”では国内債券中心の運用でも損失は避けられなかったということです。逆に、たびたび“不要論”が登場する外国債券がプラスを維持しているのも面白い。やはり国内株式、外国株式、国内債券、外国債券の主要4資産に分散投資する意義は大きいのです。

しかも、GPIFは第4四半期に積極的なリバランスも実施しているようです。開示資料を基にロイターが集計したところ「GPIFの国内債券の売り越しは4兆9075億円となった。一方、国内株式を6034億円、外国債券を3兆7016億円、外国株式を5760億円、それぞれ買い越した。全資産の運用比率を25%とする新たな運用指針(基本ポートフォリオ)の決定前に、資産の入れ替えを進めたためとみられる」だそうです(「GPIF、1―3月期は赤字運用17.7兆円 四半期ベースで最大に」ロイター)。これが事実だとすると、4月以降は国内外ともに株価はかなり回復していますから、現在はGPIFの資産もかなり回復していはずです。相場が急変した時は慌てずに淡々とリバランスするという国際分散投資のお手本ともいえる手際でした。

このように詳細に中身を吟味すると、19年度の運用も特に大きな問題はなさそうです。一時的に大きな評価損が生じることは長期運用では避けられません。そして、今回の大きな評価損を含めても、GPIFの資産総額は150兆6332億円となり、市場運用を始めた01年度からの累積収益は57兆5377億円と高水準を維持しています。確定された利益である利子・配当収入も安定的に確保しており、19年度は3兆2406億円でした。

こうしたGPIFの堅実な運用に対して、メディアや国民の間でも少しず理解が広がっているような気がします。大きな評価損が出たときほど大きく報道するというメディアの姿勢は相変わらずですが、その中身にわずかですが変化があります。例えば時事通信は次のように報じました。

公的年金運用、17.7兆円の赤字 新型コロナで過去最大―1~3月期(時事通信)

評価損の大きさに焦点を当てる記述は従来通りですが、記事の最後に「ただ、市場運用を始めた01年度からの累積収益は57兆5377億円と高い水準を維持している」ときちんと記載しています。これは極めて重要な内容です。また、Yahoo!ニュースにも同様の内容の記事がたくさん転載されていますが、それに対するコメント欄が以前とかなり変わってきました。明らかに年金運用について理解した上で書き込まれた意見が増えています。

GPIFはここ数年、じつに丁寧な情報公開を続けてきました。その成果が少しづつ、しかし確実に表れているように思います。もしかしたらそれは運用成績以上にGPIFの活動の成果かもしれません。ですからGPIFには引き続き現在の姿勢を維持しながら、腰の据わった運用を続けて欲しいと思います。そうすることによって世の中にGPIFの運用の意味を理解する国民をさらに増やすことができるはずです。

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