2020年6月27日

適合性原則は難しい―米国で20歳の若者が株取引失敗で自殺



株式投資や金融商品の販売において金融機関が守らなければならない規範のひとつに「適合性原則」があります。ところが実際は“自己責任”の名の下に必ずしも適合性原則が守られていないという現実があります。そんな投資業界の負の側面を示す痛ましいニュースが流れてきました。

なぜ20歳の若者に100万ドル近い取引ができたのか…株取引アプリのユーザーが損失を苦に自殺(Business Insider)

日本でも金融機関による適合性原則の軽視がたびたに問題になりますが、これは日本だけの問題ではなく投資先進国である米国も含めて世界的な問題なのです。

「適合性原則」とは、金融機関は顧客の知識、経験、財産の状況、金融商品取引契約を締結する目的に照らして、不適当な勧誘を行ってはならないという規制のことです。このため厳密に解釈すると、顧客に十分な知識や経験がないにも関わらず、複雑な仕組みやハイリスクの金融商品や取引を勧誘してはいけないということになります。

ところが実際の金融商品販売の場では、適合性原則は形式的なチェックだけで済まされている場合が多い。そのためトラブルも起こるわけです。今回の事件も同様でしょう。自殺した若者はオプション取引で多額の損失を抱えたそうですが、恐らくオプションの売り取引をいていたのでしょう。オプション売りはプレミアム収入を得られる代わりに、相場が目論見と反対に動くと損失は青天井になります。

もちろん自殺の要因は多様です。この若者の場合も株取引での多額の損失が自殺の原因のすべてだとは言えません。ただ、やはり何らかのトリガーになったと考えるのが自然です。

問題はこの若者がオプション取引の仕組みをどこまで理解していたのかを金融機関が把握していたかです。ここに適合性原則の難しさがあります。遺族と金融機関の間で話し合いがもたれているのも、恐らくその点をめぐってでしょう。米国は訴訟大国ですから金融機関も非常に慎重で丁寧な対応をしているわけです。

こういった悲劇が繰り返されているのを見ると、やはり改めて金融機関は適合性原則というものの重みを再認識するべきです。もっと顧客の知識や経験、財産状況を真摯に吟味し、場合によっては金融商品を“売らない”、取引を“させない”といった判断ができるようにならないといけません。顧客から要求されれば、なんでも「ハイ、ハイ」と答えているようではガキの使いと変わりなく、プロとしての矜持も責任感もあったものではありません。

信用金庫の父と呼ばれた元全国信用金庫協会会長の小原鐵五郎は金融機関の融資に関する商道徳として「貸すも親切、貸さぬも親切」と言いました。同じように金融商品の販売でも「売るも親切、売らぬも親切」といった姿勢がもっと必要なのでしょう。それがないかぎり、投資の世界はいつまでも庶民から胡散臭い業界だと思われ続けることになるような気がします。

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