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2020年3月9日
新型コロナウイルス問題と情報汚染―非常時に本物の専門家はテレビなどに出ている暇はない
1週間ぶりに海外出張から帰国して日本のテレビを見ているのですが、本当に嫌な気分になります。どのチャンネルも新型コロナウイルス感染症の話ばかり。それは別にかまわないのですが、どう考えてもおかしなことを言っている人が“専門家”として登場しているのに驚きます。テレビでいわば“情報汚染”とでもいうべき事態が起こっているわけです。なぜこんなことになるのか。そこではたと気づきました。彼らは本物の専門家ではないのです。なぜなら、現在のような非常時に本物の専門家はテレビなどに出ている暇はないはずだからです。
新型コロナウイルス対策で、とくに意見が分かれているのが感染の有無を調べるPCR検査をどの程度やるかです。テレビでは「韓国のように希望者全員に検査を受けさせるべき」と主張する“専門家”がいるのですが、実際はどうなのでしょうか。この点に関して参考になったのは、少し古い記事ですが聖路加国際病院QIセンター感染管理室マネジャーの坂本史衣さんのインタビューでした。
新型コロナ、なぜ希望者全員に検査をしないの? 感染管理の専門家に聞きました(BuzzFeedNews)
非常に論理的で納得できる話です。こういうのが本物の専門家の意見というものでしょう。そして、坂本さんのインタビューがメールとSkypeを通じて行われていることも注目です。本物の専門家は現場で全力を投入して働いている。チャラチャラとテレビに出てしゃべってる暇などないのです。
もう一う印象に残った記事がありました。クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」で感染者が拡大したことで日本のやり方を批判する論調があるのですが、テレビに連日のように登場しているある“専門家”が「イタリアを見習え」と書いていました。
新型肺炎174人の集団感染「クルーズ船3700人隔離は正しかったのか」――医師の見解は?(文春オンライン)
この記事が出てから約1カ月が経ってどうなったか。イタリアは感染者数と死者数ともに日本など問題にならないくらい激増しており、ついに感染が広がった北部地域を封鎖する事態になっています。「イタリアを見習え」などというのは“専門家”どころか、ど素人の暴論だったことが明白になりました。ちなみに、この記事を書いた医師は現在でもPCR検査の悉皆検査を盛んに主張しています。そして自分が関係するクリニックで新型コロナウイルス感染症に関するオンライン相談を5分3000円で実施しているわけですから、じつに分かりやすい。
ダイヤモンド・プリンセス号への対応についても、実際に現場を知っている本物の専門家は別の見方をしています。これまで世界中で感染症対策に当たってきた國井修医師の分析です。
クルーズ船の隔離は「失敗」だったのか、専門家が語る理想と現実(ニューズウィーク日本版)
こういった冷静にして理路整然、建設的な提言を含む分析こそが本物の専門家の意見というものです。そして、やはりこういった本物の専門家は、いまも現場で全力で働いている。やはり、チャラチャラとテレビなどに出ている暇はないのです。
最近、妻が新型コロナウイルス感染症への不安を募らせています。そこで私は「テレビはいい加減な情報が多いから、見過ぎないこと」とアドバイスしています。専門家のふりをしたど素人の暴論に振り回されてはたまりません。その上で、本物の専門家の見解をチェックするように言いました。その一人がダイヤモンド・プリンセス号でも感染予防対策に当たった高山義浩医師です。高山医師のFacebookでの発信を読むと、いま個人としてやるべきことが何なのかが非常によく分かります。いくつか紹介しておきます。
本来は、こうした本物の専門家の意見を伝えるのがテレビの役割なのでしょうが、そうなっていないことが情けない限りです。幸いにも現代はインターネットを通じて本物の専門家が現場から情報を発信してくれるようになりました。こうした情報をどれだけ入手できるかがテレビの“情報汚染”から身を守ることにつながります。新型コロナウイルスで不安になっている人は、ぜひ高山医師の投稿を熟読し、手洗いなど日常の感染症対策を徹底的に実践してください。少なくともテレビを見るよりは、確実に効果があるはずです。