2020年2月27日

いまこそ自律的な信託報酬引き下げ方針を―「eMAXIS Slim先進国株式インデックス」が信託報酬を引き下げ



三菱UFJ国際投信が「eMAXIS Slim先進国株式インデックス」の信託報酬を3月17日から引き下げると発表しました。

業界最低水準の運用コストをめざす『eMAXIS Slim(イーマクシス スリム)』信託報酬率の引き下げを実施(三菱UFJ国際投信)

引き下げ後の信託報酬は税抜0.093%以内となり、先行して信託報酬を引きっ下げていたニッセイアセットマネジメントの「<購入・換金手数料なし>外国株式インデクスファンド」に並ぶことになります。引き続き「他社類似ファンドの 運用コストに注意を払い、業界最低水準の運用コストをめざします」という方針が貫かれています。ただ、ここにきて低コストインデックスファンドで新たな動きもあります。期間限定ながら「信託報酬0%」を謳う「野村スリーゼロ先進国株式投信」の登場です。これに対して「eMAXIS Slim」シリーズはどのように対抗するべきでしょうか。あえて言いますが、やはりいまこそ自律的な信託報酬引き下げ方針への転換を進めるべきではないでしょうか。

今回の信託報酬引き下げで、「eMAXIS Slim先進国株式インデックス」は、カテゴリー最安値のコスト水準に並ぶことになります。素晴らしい低コストですから、受益者にとっても安心ですし、これから積立投資を始めようとする人にとっても商品の選択肢として最有力候補の一つとなります。

ただ、やはり投信マニアとして気になるのは「野村スリーゼロ」のような信託報酬0%のファンドが登場したことで、「eMAXIS Slim」シリーズの最大の売りであった「他社類似ファンドの 運用コストに注意を払い、業界最低水準の運用コストを目指す」という信託報酬引き下げ戦略がどうなるかです。私としては「野村スリーゼロ」への対抗値下げはないと見ています。そもそも「野村スリーゼロ」の信託報酬0%というのは10年間限定の措置ですから、番外扱いとして無視するというのが穏当なところでしょう。そもそも現在の日本のインデックスファンドの経費構造では、信託報酬0%に持続性がないことは明らかだからです。

とはいえ、やはり「野村スリーゼロ」の登場で「eMAXIS Slim」の基本戦略である「他社類似ファンドの 運用コストに注意を払い、業界最低水準の運用コストを目指す」という考え方を修正するべき時が来たのかもしれません。そもそもインデックスファンドの信託報酬引き下げというのは、純資産残高増加によって低下した単位当たり運用経費の一部を受益者に還元することが本筋。ところが「eMAXIS Slim」の信託報酬引き下げは、常に競合商品に追随するで行われてきました。つまり、ファンドの規模拡大という自律的要因ではなく、競合商品へ追随という他律的行動として行われていたわけです。

そして、ある意味で「eMAXIS Slim」の強みであった他律的な信託報酬引き下げ戦略が、「野村スリーゼロ」のような、さらに他律的なコスト決定構造を持つファンドの登場と攻勢を呼び込んでしまったとも言えます。こうした他律的な信託報酬引き下げ戦略を持つファンドが競争するとどうなるでしょうか。恐らく際限のない消耗戦となり、場合によっては共倒れする危険性もあるでしょう。やはり他律的な信託報酬引き下げにはサステイナビリティーがないのです。

こうしたことを考えると、「eMAXIS Slim」もそろそろ他律的な信託報酬引き下げ戦略から卒業すべきではないでしょうか。具体的には「他社類似ファンドの 運用コストに注意を払い、業界最低水準の運用コストを目指す」という戦略に加えて「競合ファンドの動向とは関係なく、純資産残高が増加すれば信託報酬を引き下げる」という方針への転換です。

現在、日本におけるインデックスファンドの低コスト化には目を見張るものがあります。しかし、日本の投資信託市場の規模を考えると、すでに限界レベルに達しつつあるようにも見えます。今後は、サステイナビリティーの面から自律的な信託報酬引き下げ方針が重要になってくるのでは。既に「<購入・換金手数料なし>ニッセイ」シリーズは、純資産残高の増加に合わせて信託報酬を引き下げていくという自律的な戦略を明確にしつつあります。こうした動きにこそ「eMAXIS Slim」は対抗するべきでしょう。それができれば「eMAXIS Slim」の輝きは、一段と増すはずです。

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