2020年2月26日

画期的だが不安になる信託報酬0%―「野村スリーゼロ先進国株式投信」が登場



野村アセットマネジメントが、とんでもないインデックスファンドを登場させました。なんと信託報酬が10年間無料になるという驚きのファンドです。

つみたてNISA向け信託報酬率0%投資信託「野村スリーゼロ先進国株式投信」の設定について

10年限定とはいえ信託報酬が0%というのは画期的な低コストであり、ある意味でインデックスファンドにおける低コスト競争の最終形態ともいえる商品でしょう。ただ、画期的だけれども、不安にもなるファンドです。なぜななら、果たして信託報酬0%のファンドに持続性があるのか確信か持てないからです。

「野村スリーゼロ先進国株式投信」は2030年12月末まで信託報酬0%、それ以降の信託報酬は税抜0.1%以内となります。運用は野村アセットマネジメント、受託会社は野村信託銀行、販売は野村證券の「つみたてNISA」口座となっており、「スリーゼロ」の文字通り野村グループ3社が手数料を10年間無料にすることで開発された商品です。これは明らかに野村證券に「つみたたてNISA」口座を開設してもらうための販促商品といっていいでしょう。

信託報酬0%というのは、個人投資家からするとまさに夢の商品ですから、それはそれで大いに評価できます。ただ一方で、個人的にはちょっと不安にもなりました。信託報酬が低くなることが問題なのではありません。そもそもインデックスファンドは一種の装置産業ですから、純資産残高が増加すれば単位当たりの運用コストは低下するので、信託報酬も低下することに合理性があるのです。ただ気になるのは、はたして「野村スリーゼロ」のように最初から信託報酬をゼロにしてしまうことに合理性があるのかという疑問がわきます。

米国では既にフィデリティ・インベストメンツが信託報酬0%のインデックスファンド「フィデリティZEROトータルマーケット・インデックスファンド」「フィデリティZEROインターナショナル・インデックスファンド」を運用しています。しかし、これらファンドはベンチマークにフィデリティの独自指数が採用されているため、フィデリティグループとしては指数使用料で収益を得ることができます(もちろん、最大の狙いは顧客の囲い込みでしょうが)。その意味では、まだ信託報酬ゼロに合理性があるわけです。

一方、「野村スリーゼロ」はどうでしょうか。いまのところ運用経費の足しになるような収益源は見当たりませんから、10年間は野村グループとして完全な持ち出しとなるはず。まさに出血サービスですから、一種の販促商品とみなされても仕方ありません。そして気になるのは、こうしたコスト構造を合理的に説明しようとすると「コストを他に付け回します」ということしか言えないわけです。はたしてそういった商品に自律的な持続性を期待できるでしょうか。

つまり何が言いたいのかというと、信託報酬ゼロという仕組みには、それを可能にする持続的で合理的な理由が必要なのではないかということです。なぜなら、そういった合理性を軽視することは、やはりインデックスファンドの低コスト化を支える合理的な理由である「ファンドが成長すれば単位当たりの運用コストは低下する」という本筋を運用会社も受益者もともに軽視する風潮を助長しかねないと感じるからです。

改めて思うのは、やはり日本では「インデックスファンドは規模が大きくなればコストが低下する」という大前提が依然として軽視されていることに気付きます。だからほとんどの運用会社は既存インデックスファンドの信託報酬をほとんど引き下げてきませんでした。ようやくここ数年は純資産残高が増加すれば信託報酬を断続的に引き下げることに挑戦するファンドが登場してきたところです。一方で、やはり新規ファンドの設定でコストを引き下げることも続いています。そして、そういった合理性を軽視する流れの中で登場したのが「野村スリーゼロ」のような気がします。だから、信託報酬ゼロということの画期性に驚くとともに、なんともモヤモヤした不安を感じてしまうのでした。

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