2020年1月10日

積立投資が普及することの本当の意義―フローにおける“貯蓄から資産形成へ”



「つみたてNISA」の登場や個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入対象拡大などで積立投資の普及が徐々に進んできました。では、そもそも積立投資の普及は日本の家計や金融資産のあり方にどのような意義があるのでしょうか。この点に関してフィデリティ退職・投資教育研究所の野尻哲司所長が非常に納得できる指摘をしていました。それは、家計のストックにおける“貯蓄から投資へ”ではなく、フローにおける“貯蓄から資産形成へ”の流れを生み出すことなのです。

日本だけなく先進国の多くで高齢化が進んでいることで、老後資金の準備など経済面での自助努力の重要性が高まっています。このためリスク資産への投資を含めた資産形成の必要性が高まっているのは世界共通の現象でしょう。こうした議論の際に、よく引き合いに出されるのが個人金融資産の日米比較です。米国と比べて日本の金融資産が預貯金に偏っていることから、「貯蓄から投資へ」の流れを作るべきだという議論です。ところが、この考え方に対してフィデリティ退職・投資教育研究所の野尻所長が鋭い指摘を投げかけていました。

改めて考える資産形成の意味(フィデリティ退職・投資教育研究所)

じつは日本の個人金融資産の内訳を示すパイチャートは20年前からほとんど変化していません。なぜかというと、日本において個人金融資産の大部分を高齢者が保有しているからです。そうなると、単純に「貯蓄から投資へ」というメッセージを実行することは、それこそ高齢者に預貯金を減らし、株式や投資信託を買わせることになります。はたしてそれが良いことなのか疑問。実際に高齢者への金融商品販売が一部で社会問題にすらなっているのですから。そう考えると、パイチャートが示す資産割合が変化しないの当然だし、その方が良いとも言えます。

だから、本当に必要なのは高齢者に投資を促すことではなく、現役層の資産形成を促すことだと野尻所長は指摘しています。パイチャートを変化させるのではなく、現役層の資金フローの一部を株式や投資信託に振り向けさせることが重要だということです。ここに「貯蓄から投資へ」ではなく、「貯蓄から資産形成へ」というスローガンが登場する理由があります。

では、現役層が資金フローの一部を投資に振り向けるとは、具体的には何を指しているのでしょうか。これこそが積立投資にほかなりません。そして、ここに積立投資が普及することの本当の意義があるわけです。そして現在、少しづつですが現役層の間で積立投資が普及しようとしています。それによって個人金融資産の構成比率も徐々に変化していくはずです。フローの変化によって、いずれパイチャートを変化させていくはずです。それが本当の意味で「貯蓄から資産形成へ」というメッセージが具現化した姿ということになるのではないでしょうか。

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