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2019年7月28日
米国株の時代が終わり、新興国株・欧州株・日本株の時代が始まる
過去10年以上にわたって世界の株式市場において素晴らしいパフォーマンスを続けてきたのが米国株でした。このため最近では“米国株にさえ投資すれば大丈夫”と言った見方も登場してきたわけです。ところが、ここにきて風向きが変わるのではないかという予想も登場しています。例えばピクテ・グループがこのほど発表した今後5年間の市場見通しでは、米国株の時代が終焉したと分析しています。変わって大きなリターンが期待できるのが新興国株と欧州株、そして日本株だそうです。
私はピクテ投信投資顧問の低コストアクティブファンド「iTrust世界株式」を保有しているのですが、「iTrust」シリーズの受益者には受益者専用サイト「iInfo」を通じて機関投資向けレポートがいくつか定期配信されます。その一つがピクテ・グループの運用戦略と商品開発戦略を立案する際に使用される5年先の市場見通しを記した「Circular Outlook」です。その最新版が公開されているのですが、非常に興味深い内容でした。
レポートの中でピクテは米国の景気拡大期は終焉し、逆に今後5年間「米国経済の低迷は、先進国全体の重石となる」と予想しています。最大の要因は企業債務の増加です。2008年の金融危機以来、先進国はどこも大胆な金融緩和を実施し、実質金利を引き下げてきました。このため企業は資金調達が容易なったのですが、それが今や企業の創出するキャッシュフローに対して高水準にまで積み上がりました。
ところが風向きが変わってきます。ここにきて金融緩和が格差拡大をもたらしたとの批判が高まっており、この是正を求める政治的要求が「今後数年以内に、米国内外の企業の打撃となる公算が高い」と指摘します。例えば法人税の引き上げや各種規制の強化があり得るということです。実際に過去40年間、生産性の伸びが生み出した付加価値はほとんどすべてが企業と株主に分配され、労働分配率は低下の一途。こうした状況に対する政治的批判が高まり、やがて企業収益を低下させる政策が拡大することになります。
企業収益が低下した場合、米国企業が積み上げた債務の負担が大きくのしかかってきます。じつはこれまでも米国株の好調を支えてきたのは収益の拡大だけでなく、容易になった資金調達を利用した自社株買いでした。これは言い換えると、返す必要のない債務(株式)を返済義務のある債務(社債や借入金)に置き換えることを意味します。しかし、企業収益が低下すると“返済義務のある債務”の負担は極めて大きくなる。これこそ米国株を下押しする構造的要因となるわけです。このためピクテは、今後5年間の米国株の予想リターン(米ドルベース)が年率平均3.3%にとどまると予想しています。
米国株の成長が鈍化する一方、大きな伸びが期待できるのが新興国株だそうです。とくに中国は従来の輸出主導型経済から消費主導型経済への転換が必要となります。しかも人口動態の問題もあり、近い将来に経常赤字に転落する公算が高い。経常赤字の状態で消費主導型経済を維持するためには海外からの資本流入が不可欠。中国政府は金融市場の自由化、資本勘定の開放そして世界の金融制度への統合を進めざるを得なくなるというのがピクテの読みです。そして、これが新たなリターンの源泉となるということでしょう。
同じような傾向は他の新興国にも当てはまります。インドネシア、インド、ブラジルなどでも資源と低付加価値製品の輸出から国内消費・サービスへの転換が進んでおり、これら国々では人口規模も好材料です。一方、新興国の懸念材料だったインフレ率は低水準で推移しています。こうしたことから、新興国の投資妙味が一段と増すことになります。ピクテの予想では今後5年間の新興国株の予想リターンは年率平均11.4%に達します。
新興国に次いで期待できるのが欧州株です。もともとユーロ圏に対する投資家の懸念から欧州株はバリュエーションがそれほど高くありません。そうした中、少しずつですがユーロ安定化に向けた構造改革が成果を上げ始めました。ユーロ圏の労働経済人口の割合が上昇し、問題だったドイツとその他加盟国の競争力格差が縮小しています。さらに財政規律に厳格だったドイツでも財政拡大の必要性を指摘する声が大きくなっています。このためユーロ圏では今後5年間、公共投資が拡大し、それが経済を牽引する可能性があるのです。やはりピクテの予想では今後5年間の欧州株の予想リターンは年率平均で英国株が9.2%、ユーロ圏株が8.6%と予想しています。
日本に対しても好感触です。世界的に企業債務の増加が企業にとって大きな重石になる中で、日本の最大の強みは企業部門の債務がほとんどないこと。そして中国などアジアの新興国と地理的に近く、その成長をうまく取り込める可能性があることです。このためピクテは今後5年間の日本株の予想リターンを年率平均6.3%と見込んでいます。
まさにピクテの予想は「米国株の時代が終わり、新興国株・欧州株・日本株の時代が始まる」といった調子です。日本の個人投資家の間では「米国株式最強論」や「日本株オワコン論」が盛んですが、世界の機関投資家はそのような単純な見方はしていない。やはり相場の世界は奥が深いわけです。そして、こうした見方があるということを知っておくことは意味あることでしょう。
もっとも、今回紹介したのはあくまでピクテの予想ですから、それが実際に的中するかどうかわかりません。やはり将来の予想というのは非常に難しいわけです。こういった難しい局面で、個人投資家はどのような一手を指すべきか。結局はすべての地域に分散投資するという“平凡な一手”こそが、最善の一手になるような気がします。