2017年10月18日

国の「安定的な資産形成」への政策意志は本物―全国5都市でシンポジウム開催



金融庁は2017年11月から広島、大阪、仙台、さいたま、名古屋の全国5都市で「安定的な資産形成について考えるシンポジウム」を順次開催します。

「安定的な資産形成について考えるシンポジウム」の開催について(金融庁)

プログラムを見ると「つみたてNISA」の説明や投資教育教材の紹介に加えて、有識者による基調講演も用意されています。なかなか豪華な講師陣をそろえているのもすごい。今回の取り組みを見て、いよいよ国による国民の資産形成促進に向けた政策意志は本物だと感じました。なぜなら、これはたんに金融庁という1省庁の枠を超えた取り組みだからです。

今回のイベントの凄いところは、金融庁に加えて各地の財務局が主催していること。さらに後援として厚生労働省と文部科学省の名前があります。日本の役所というのは基本的に縦割りですから、ちょっとしたことでは省庁横断での取り組みは行われません。ところが今回のイベントには4省庁が参加している。この意味は明白です。すなわち「つみたてNISA」などを所管する金融庁、課税問題を担う財務省(財務局)、確定拠出年金などを所管する厚生労働省、そして投資教育に関係してくる文部科学省という、まさに国民の資産形成にかかわる制度の所管官庁がすべて連携して取り組むということでです。

私はここに国の強烈な政策意志を感じました。国にとって国民の「安定的な資産形成」を促進することは、単なる1省庁が担うような問題ではなく、それこそ霞が関が総力戦で取り組む課題として設定されているということを明瞭に感じたからです。それは同時に、「つみたてNISA」も確定拠出年金も、それぞれがバラバラに制度改革されているのではないということです。もっと大きなグランドデザインの下に、相互に連環した制度として再設計されているということを確信しました。

では、なぜ国はそこまでして国民の資産形成を後押ししたいのか。この答えは明白です。ひとつは、国民の老後を支える社会保障制度が財政的な制約によって、これ以上の拡充が難しいからにほかなりません。公助に限界がある以上、国民には従来以上の自助努力が求められる。だからこそ国民の自助を国としても最大限後押しする責任があるということです。これは厚生経済の面でも重要ですが、もっと冷徹な見方をすれば、社会秩序維持のために必要だという解釈すら可能です。

もうひとつは、国家経済の活性化という極めて経済政策的な観点です。日本は既に成熟経済の段階に入っています。成熟経済において経済のフローを拡大するためには、生産・消費の拡大だけでなくストックの活用が欠かせません。先進国においで最大のストックは国民の金融資産です。実際に欧米諸国は株式投資という形で国民のストックを活用することで成熟経済における成長を実現してきました。日本はこれが欠けていたからこそ、欧米に比べて国民資産の成長が鈍かったという反省が国にはあるのでしょう。だからこそ生産・消費だけでなく投資による収益によって経済を成長させようとしているのです。

そして金融ストックの活用とは、日本に投資することだけではありません。それよりも海外資産に投資することの方が重要になる。日本経済は成熟していて大きな成長が見込めないからこそ、逆に海外に投資することで、海外から富を日本に還流させることが求められる。ここに国が促進しようとしている国民の「安定的な資産形成」において国際分散投資が提唱される理由です。

もちろん投資には自己責任の原理が貫徹されます。だから国が求める「安定的な資産形成」というのは、じつは国民に対して厳しい自己研鑽を求めているともいえる。だからこそ投資教育の重要性が高まるのです。今回、文部科学省までがこのプロジェクトに参画している意味がそこにあると言えるでしょう。

いずれにしても国の政策意志は本物です。国がこれだけ本気になった以上、恐らく今後の日本の投資・運用業界は根本的に変わる可能性がある。それがはたして国民にとって良いことなのか悪いことなのかは分かりません。ただ、現段階では個人の投資家にとって良い方向に環境が整備されようとしていることだけは確かでしょう。そんなことを再確認するためにも、私もぜひシンポジウムに足を運んでみたいと思います。

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