定例の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)ウオッチです。2017年第1四半期(4~6月)の期間収益率は+3.54%、帳簿上の運用益は+5兆1153億円、市場運用開始来の収益率は年率3.07%となりました。これにより運用資産額は149兆1987億円となります。なお、今回から金額ではなく収益率を中心に記述することにしました。金額の多寡で一喜一憂するよりも、運用状態の実態を表していると考えるからです。
平成29年度第1四半期運用状況(GPIF)
四半期ベースでは4期連続でプラス収益となり、順調な運用が続いています。4~6月は世界的に株式が堅調に推移し、収益を押し上げた形です。また、円安基調が続いたことで外国債券もプラス収益に貢献しています。一方、国内債券への投資は収益率-0.01%で14億円の損失です。何度も指摘していますが現在のような歴史的な債券価格高・低金利の状態では、国内債券は決して安全資産ではありません。その意味でGPIFの現在の資産配分を見ても国内債券投資への迷いが感じられ、今後の動向が気になるところです。
今回の結果について髙橋則広理事長は次のようにコメントしています。
内外の堅調な経済指標、良好な企業業績により、世界的な株高基調が継続しました。また、日銀の金融緩和が継続される中で、FRB(米連邦準備理事会)の政策金利引き上げやECB(欧州中央銀行)等の金融政策正常化観測から円安基調となりました。このように良好な市場環境が続いたことから、4月から6月までの運用実績はプラス3.54%となりました。もちろん、収益と言ってもあくまで評価額ですから短期的な動きに一喜一憂するべきではないというのは言うまでもないことです。引き続きGPIFには腰を据えた投資を継続してほしいと思います。
さて、今回の運用報告を見て気になったことが1点あります。それはGPIFの国内債券への投資スタンツ。6月末段階のポートフォリオを見ると、国内債券の比率は30.48%となり、基本ポートフォリオに定めた配分である35%を大きく下回った状態です。本来ならリバランスして国内債券を買い増す局面ですが、短期資産(現金など)が7.76%と増加しており、国内債券への投資に消極的になっている印象を受けました。
この理由を解くカギは、どうやらGPIF独特の国内債券投資戦略にありそう。GPIFの運用は基本的にインデックス運用ですが、国内債券への投資のベンチマークは一般的なNOMURA-BPI総合などではなく、NOMURA-BPI国債、NOMURA-BPI「除くABS」、NOMURA-BPI/GPIF Customized、NOMURA物価連動国債インデックス(フロアあり)
の複合ベンチマークとなっています。つまり、国内債券に関しては、どうも単純なインデックス投資を行っているわけではなさそうなのです。
この点に関して示唆に富む指摘をニッセイ基礎研究所の徳島勝幸氏が行っています。
NOMURA-BPI総合は年金にとって適切なインデックスなのか(ニッセイ基礎研究所)
やや専門的な内容ですが、ようするに国内債券というのはどれだけ分散投資しても基本的に収益は国債の金利水準に左右されるということ。そのため、マイナス金利の下で国内債券インデックスに追随するためにマイナス利回りの債券を購入し続けることは、将来的なリスクを高めていくことになります。確かに債券は長期で保有すればするほど、最終的な収益は購入時に規定された利回りに収斂していきますから、やはり長期運用が原則の公的年金がマイナス利回りの債券を購入するべきかどうかというのは議論のあるところでしょう。だからこそ徳島氏は次のようにも指摘しています。
実は、GPIFは被用者年金一元化以前においては、複数のインデックスからなるコンポジットを採用しており、現状は、他の公務員共済等との運用共通化において容易に理解できるようNOMURA-BPI総合を掲げているに過ぎないと考えられる。昨今のようなマイナス金利下において、公的年金は、国内債券のパッシブ運用をNOMURA-BPI総合に対するトラッキングエラーを押さえるよう愚直に実施してはいない。現環境下での単純なパッシブ運用は、フィデューシャリー・デューティーの観点から問題がある。やはりGPIFは国内債券に関しては単純なインデックス投資は行っていないのです。これを読んで、GPIFの現在のポートフォリオと基本ポートフォリオの間で国内債券のウエートが乖離している理由も分かったような気がします。おそらくGPIFはマイナス利回りの国債を新規購入することをためらっているのではないか。なぜなら、マイナス利回りの国債を長期で保有すれば実際の収益もマイナスへと収斂する上に、長期金利が上昇すれば債券価格低下でさらに大きな損失を被る可能性がある。公的年金がそうした資産に投資することが果たして正しいことなのかは、たしかに大きな問題です。
しかも債券は満期償還がありますから、GPIFが既に保有している国債も順次償還されて現金となる。これを何に再投資するのか。マイナス利回りの債券に再投資することをためらった場合、再投資先が限られてくる。それがポートフォリオにおける国内債券比率の低下との短期資産の増加という形で表れているのではないでしょうか。
そう考えると、現在のGPIFにとって最大の悩みの種は国内債券への投資なのかもしれません。それは株式への投資以上に難しい問題です。その意味で、GPIFの今後の国内債券への投資動向というのは非常に気になるところなのです。
【ご参考】
YouTubeにGPIFによる第1四半期運用報告の動画がアップされています。説明者は広報担当の本多奈織さん! 投信ブロガーの中にはいろいろとお世話になった人も多いのでは。私も非常にお世話になりました。GPIFで活躍している姿を見て、ちょっと感動です。とくに記者との質疑応答のパートは必見。本多さんは記者の手の内を知り尽くしているので、記者の方がびびってしまって無茶な質問ができなくなっています。それを本多さんが余裕で捌く姿が面白かったです。