2017年8月24日

インドネシアの最低賃金の決め方が面白い



インドネシアを訪問するたびに感心するのですが、とにかくインドネシア人の消費が旺盛。インドネシア人は、あまり貯金とかをしないそうです。それよりも物を買ったり、おいしいものを食べたりすることにお金をどんどん使う。なぜそうなるのかと言うと、基本的にインフレ基調の経済なので、お金を貯めても実質的に減価していきますから、それよりも使った方が効用が大きいわけです。それともうひとつ、やはり所得が毎年増えていくことに実感を持っていることも大きいでしょう(それは日本人が忘れかけた感覚でもあります)。そんな中、面白いと思ったのはインドネシアの最低賃金の決め方です。

私が初めてインドネシアを訪問したのは2011年。あの頃はホテルのレストランや日本料理屋に入っても、お客のほとんどは駐在員や出張者とおぼしき日本人ばかりでした。何しろホテルのレストランや日本料理屋というのは現地の相場からすれば非常に高価でしたから。ところがその頃からインドネシアでは最低賃金の大幅な引き上げが相次ぎます。ちょうど“チャイナ・プラスワン”といった掛け声も大きくなり、インドネシア経済が好調だったからです。

それからというもの行きつけのレストランや日本料理屋やってくるインドネシア人の数が見る見るうちに増えました。今ではほとんどの客が現地人。逆に日本人の方が少数派というときも珍しくありません。やはり給料が上昇し続けたことで、インドネシア人の可処分所得が増加し、それが消費へと流れ込んでいったのです。

とくにここ5年間のインドネシアの最低賃金引き上げは極めてドラスティックでした。年によっては50%以上引き上げられたケースもあります。さすがにこれだけ給料が一気に増えると、そりゃ気も大きくなって、飯でも食いに行こうかという気になりますよ。

ところが最低賃金の引き上げには副作用もあります。賃金上昇率の高かったジャカルタ周辺では競争力のない業種を中心に企業の倒産や閉鎖が相次ぎ、大量の解雇も実施されました。やはり急激な最低賃金の引き上げは、大きな摩擦を生み出すのです。ただ、インドネシアが幸いだったのは、経済が順調に成長していたことです。経済成長が摩擦を吸収するだけの余裕を持っていた。それを目の当たりにすると「ああ、日本も高度成長のときはこんな風だったのだな」といった感慨を持ちました。

しかし最近、賃金の急激な引き上げが経済に与える悪影響が無視できなくなってきました。このため政府は最低賃金の決め方を変更しました。従来は労使交渉を基に州政府が最終決定していたのですが、新しい方式では最低賃金の上げ幅は「経済成長率+インフレ率」をベースにするということになっています。ちなみに2016年のインドネシアの実質GDP成長率は5%台、インフレ率は3%台でした。このため17年の最低賃金引き上げ率は8%台となっています。

素人の印象論ですが、このやり方はなかなか面白い。経済成長をきちんと最低賃金に反映させようという狙いがあるからです。インフレ率も加味されることで実質的な購買力が減退しないように工夫されているともいえます。そして、経済成長率やインフレ率を下回る収益力しかない企業は人件費増加に耐えられなくなって市場から退場しても仕方ないというかなりドライな考え方も垣間見えます。

インドネシア人は賢いし、日本も少しは見習った方がいいと思う。もし日本で最低賃金の決定要素に経済成長率とインフレ率が組み込まれたらどうなるか。きっと日本人も経済成長とインフレがなければ基本的に給料は増えないという当たり前の事実に気づくではず。そうなれば「日本は今後、みんなで貧しくなればいい」といった金持ち老人の戯言を粉砕できるでしょう。

たまに新興国を訪問すると、知らず知らずのうちに自分の中にあったデフレマインドを解きほぐしてくれるので、じつに爽快です。
(アイキャッチはジャカルタの裏通りで見かけた野良ネコ。暑い国なので水分補給が大事なのです。)
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