2017年6月21日

企業型DCでリスク性商品をデフォルト商品にするのはまだ無理―日本人とマスコミの金融リテラシーも問題だ



モーニングスターに確定拠出年金の普及に向けてどういったことが必要なのかをタワーズワトソンの浦田春河氏に聞くインタビューが掲載されていました。

DC制度の一段の普及に必要な変革は? DCの運用に関する専門委員会の報告書についてタワーズワトソンの浦田春河氏に聞く(モーニングスター)

さすが専門家だけあって、なかなか的を得た内容だと思います。その中で印象に残ったことが1点。企業型確定拠出年金の「指定運用方法(デフォルト商品)」をどうするかという問題です。浦田氏はリスク性商品をデフォルト商品とすることを提言しています。これは理屈としては全く正しいと思うのですが、現実問題としては、まだ無理でしょう。なぜなら、それを可能にする前提条件がまだ日本には整っていないと思えるからです。

DC制度は個人型、企業型ともに加入者が自分で商品を選択し、運用を指図しなければなりません。ところが運用指図がなかった場合、自動的に資金を振り分ける商品がデフォルト商品です。現在、ほとんどのDCプランはデフォルト商品に元本保障型商品である定期預金を指定しています。このデフォルト商品をどうするかが現在、DC改革のテーマのひとつとなっています。

この問題は、主に企業型DCでの問題です。個人型DC(iDeCo)の場合、そもそも加入者が主体的な判断でDCに加入しているわけですから、運用指図をしないということはほとんど考えられません。しかし企業型DCの場合、加入企業に入社した段階で従業員は本人の意志と無関係にDCに加入するケースが多い。よく分からないまま運用指図もせずに、結果として企業が拠出する掛金がデフォルト商品に積み上がっていくということが往々にしてあります。

もちろん企業型DCでは投資教育が義務付けられているので、本来なら運用指図ができない人がいてはいけないのですが、現在の投資教育は十分なレベルとはいえません。これは企業が悪いだけではなく、加入者の方にも原因があります。実際、世の中には「株式」や「債券」という言葉の意味すら知らない人がいますから、そんな人がちょっと会社で投資教育を受けたぐらいできちんとした運用指図ができるわけがないのです。

そこでデフォルト商品にターゲットイヤーファンドなどリスクを調整した上でのリスク性商品を設定するべきという話になります。この点に関して浦田氏は次のように述べています。
デフォルトを元本確保型商品にしていると、物価変動等の影響を考慮すれば、DC資産が実質的に元本割れする加入者も出てくる。こうした企業に意識してほしいのは、今回の報告書にあるように、「デフォルト商品に入ったお金は、加入者が運用指図したものとみなされる」ことだ。デフォルト商品で損失が出たとしても企業側が運用の責任を求められることはない。米国にある免責規定と同様の効能が今回確認されたのだ。事業主は、短期的な運用損失を懸念することなく、勇気をもって、ターゲットイヤーファンドなどリスク性商品をデフォルト商品に位置付けるべきではないだろうか。そして、そうした方が長期的には、運用先を決められない加入者を救うことになる。
これはまったく正論です。とくに、例え元本が保証されていても、それは名目上のことでありインフレになれば実質損失になる場合もある。そして長期の運用が原則となる年金資金は、インフレに対する備えが最も重要になるのです。だから実際に海外ではデフォルト商品にリスク性商品を設定することが普通に行われているわけです。

では今後、日本の企業型DCでもデフォルト商品にリスク性商品が設定されるようになるでしょうか。私はまだ無理だと思います。なぜなら、たとえ「免責規定」が確認されていたとしても、現在の日本社会の平均的な金融リテラシーの程度を考えれば、実際に損失が発生すると必ず「知らない間に勝手に株を買わされて年金を失った」と言って裁判に訴えるような人が出てくるのが目に見えるからです。もちろん裁判になれば企業が勝つでしょうが、そもそも訴訟になる可能性があるということ自体が企業からすれば大変な法務リスクなのです。

さらに企業が恐れるのが、裁判などになったときにマスコミが騒ぎ出すことでしょう。企業版「消えた年金」問題としてセンセーショナルに報じられては、それだけで大変な風評被害となってしましまう。そもそも日本のマスコミは、一部の専門記者を除いては恐ろしく金融リテラシーが低い。なぜなら社内規則などで投資自体を禁止されている場合もあり、株式も債券も投資信託も触ったことがない人がいますから。そういうマスコミが、どのような報じ方をするのかは推して知るべき。実際に現在でも例えばGPIFの運用に関する報道などは明らかに異常です。

だから、現状では企業型DCのデフォルト商品にリスク性商品を設定するのはとても難しいと思う。結局、国民の金融リテラシーをもっと高めてからでない無理ではないでしょうか。

そのためには企業型DCの最大の改善点は、投資教育義務の強化だと思います。現在のように簡単な説明会を開くだけでは生ぬるい。それこそ専用のワークブックやドリルを作って新入社員研修の中で強制的に解かせる。さらに試験もして、合格点を取るまで何回も追試をするぐらいのことをするべきです。そもそも企業型DCというのは運用リスクを従業員にのみ負担させるものなのですから、せめて企業は投資教育にはそれくらいの責任を持つべきでしょう。そして、そこまでやって初めてデフォルト商品にリスク性商品を設定する前提条件が整うのだと思います。
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