「カンブリア宮殿」登場以来、人気急上昇中の「ひふみ投信」ですが、受益者からすると複雑な心境です。アクティブファンドの場合、急激な資金流入は運用の難易度を上げるケースが多いですから。そんな心配をしながら、このほど発表された2017年3月次運用報告書を読んで驚きました。「ひふみ投信」の3月の騰落率は+3.2%、参考指数であるTOPIX(配当込み)の騰落率は-0.6%でした。3月も素晴らしいパフォーマンスを見せてくれています。気になっていた純資産残高は3月31日段階で496.1億円(前月は403.0億円)、受益権総口数は12,512,291,598口(前月は10,585,691,409口)となり、やはり大幅な増加です。しかし、大きな資金流入があっても慌てて投資していないところに安心しました。
トランプ政権のオバマケア改革が頓挫するなど不安要素もあって米国株が軟調となり、つれて日本株もやや冴えない展開が続いた3月でした。そんな中、参考指数を大幅にアウトパフォームする成績となったとはさすがの一言。これは「ひふみ投信」も明言していますが、3月のように相場がヨコヨコの展開となると、組み入れている「地味で地道な企業」がジワジワと評価されて成績が上がりやすいのです(そのかわり、急騰・急落相場には意外と脆いです)。ある意味で「ひふみ投信」の強みが良く出た月次だったと言えそうです。
今後の運用に関して最高運用責任者の藤野英人さんは、警戒感と楽観を併せ持った複雑な感覚を持っているようです。運用報告書でも次のように指摘しています。
日米ともに足元の景気は回復途上にあり、景気そのものが大きく崩れるおそれは小さいですが、景気がピークアウトして息切れする可能性を検討しなければいけません。このような微妙な相場環境の中で、テレビの影響もあって「ひふみ投信」「ひふみプラス」「ひふみ年金」に大きな資金流入が起こっています。「ひふみマザーファンド」の純資産残高は1848.5億円に達しました。前月末が1417.7億円でしたから、実に400億円以上の資金が一気に流入したことになります。急激な資金流入は流出と同様にアクティブファンドにとっては運用の難易度を高める要素となります。これに対して藤野さんはかなり慎重な手段で対応しているようです。
とはいえ、景気に対して過度に弱気になっているわけではありません。景気が強い時には腰折れの可能性を、景気が弱い時は再浮上の可能性を同時に探るのは職業的な癖と言ってよいでしょう。
増えた資金を保有銘柄に急激に投資すると市場に不自然な歪みを起こしてしまうので、必要な銘柄に少しずつ投資しながら、残りの資金は現金で保有しています。資金が大幅に流入しても慌てて投資しないということ。こうした投資姿勢は、相場が上昇したときには機会損失となり、リターンが市場平均を下回る原因となるのですが、そういったリスクを冒してでも、バリュエーションなどの面で納得のできない銘柄には投資しないという姿勢は、アクティブ運用としてはひとつの見識でしょう。逆に今後、相場に大きな調整局面があれば、豊富な買付余力が威力を発揮し、たっぷりと有望銘柄を割安に仕込むことができます。いずれにしても私は、資金流入に浮かれることなく慎重な投資姿勢を強めている「ひふみ投信」のやり方を支持します。一時的にリターンが低迷しても、それはアクティブ運用として避けられないこと。何度も書いていますが、相場に百戦百勝はないのです。
現状ではひふみマザーファンドの15.5%が現金等になっています。過去の中では高い水準となっていますが、高値警戒感を強く持っているというよりは(少しはありますが)、資金流入に伴う慎重な投資姿勢であると理解していただければ幸いです。
月次運用報告書と合わせて定例の運用報告会「ひふみアカデミー」の様子がYouTubeにアップされていますが、受益者はこれも見ておいた方がいいでしょう。かなり突っ込んだ話がなされています。とくに興味深かったのが、いよいよ米国株への投資を準備していることを示唆しているところです。既に銘柄選択も終えているようで、あとは投資のタイミング(米国株の下落と円高)を図っている。また、組入れ上位銘柄だったGMOペイメントゲートウェイが個人情報流出事件で大幅下落した問題にも触れています。すでに保有の7割は売却したとか。ただ、3割は保有を続けており、今後の展開次第では買い戻しも検討しているようです。
さて、月次運用報告書に先立って発表された中間レポート恒例の組入れ銘柄紹介です。今回はフィックスターズ(3687)でした。主にマルチコアプロセッサー向けのプログラミング開発を行っている会社だそうですが、さすがにこのレベルになるとさっぱり内容が分かりません。あいかわらず、よくこんな銘柄を探してくるなと感心すると同時に、半導体関連で全方位の投資を行っていることもよく分かります。半導体分野は裾野が広いですから、探せばまだまだ面白い会社が出てくるのでしょう。しかし、どこまで半導体関連を追いかけるのかな。出口戦略もそろそろ気になりだしました。
最後に改めて書いておきますが、「ひふみ投信」のような個性の強いアクティブファンドというのは、ちょっとテレビで紹介されたからといって軽々に飛びついてはいけないと思う。そもそもアクティブファンドへの投資というのは難しいものですから、単純に"儲けたい"という気持ちだけで購入していては寂しい思いをするケースも少なくないと思います。ファンドの在り方や運用哲学について踏み込んだ研究と理解を経た上でないと購入してはいけないということを強調しておきます。
【関連記事】
純資産残高急増で「ひふみ投信」は変質するのか
テレビで紹介されてぐらいですぐに飛びついてちゃダメだよ―「ひふみプラス」に設定来最高の107億円流入
【ご参考】
ひふみ投信は、銀行や証券会社といった販売会社を通さない直販ファンドです。ネットから無料で口座を開設することができます。⇒ひふみ投信
ひふみ投信と同じマザーファンドに投資する「ひふみプラス」はSBI証券 、カブドットコム証券、楽天証券、マネックス証券など主要ネット証券や地方銀行などで買うことができます。
また、ひふみ投信と同じマザーファンドに投資する確定拠出年金専用ファンド「ひふみ年金」がSBI証券の個人型確定拠出年金(iDeCo)プランでラインアップされています。SBI証券のiDeCoは手数料の安さや低コストインデックスファンドをそろえた商品ラインアップが素晴らしく、iDeCoの選択肢として最有力のひとつです。こちらもネットから無料で簡単に資料請求できます。⇒SBI証券確定拠出年金プラン