2017年2月9日

MUFGは恐ろしいことをやろうとしている―eMAXISの信託報酬が"業界最低水準"に引き下げられるとの報道



2月8日付の日経新聞夕刊に三菱UFJ国際投信がインデックスファンドシリーズ「eMAXIS」のうち4ファンドの信託報酬を業界最低水準にまで引き下げるとの報道がありました。

三菱UFJ国際投信、投信手数料「常に業界最低」に(「日本経済新聞」電子版)

すぐさま三菱UFJ国際投信が報道に関するプレスリリースを発表したのですが、その文面もなかなか意味深長だったので思わずざわついてしまいました。

本日の日本経済新聞夕刊掲載記事について(三菱UFJ国際投信)

形式的には報道を否定しているのですが、「正式な情報は後日プレスリリースにてお知らせ致します」ということは、なんらかの動きがあるということを意味していると考えるのが自然だからです(翌日、プレスリリースが訂正され、現在はこの文言は削除されています)。「古豪、遂に動くか!」と思わずにはいられません。正式発表があるまで断定的なことは言えませんが、報道が本当なら日本におけるインデックス投資の分野においてとんでもないインパクトを与える可能性があります。それは同時に、三菱UFJ国際投信というよりもMUFGとして、恐ろしいことをやろうとしているとさえ思えるのです。

日経新聞の報道によると、今回のeMAXISの信託報酬引き下げは、単に信託報酬を引き下げるのではなく、競合する他社のファンドと比較して「常に最低」の水準にまで連動させるというところが画期的です。記事ではその事情を次のように報じています。
対象はインターネット専用投信「eMAXIS」シリーズのうち4本。国内外の株式、債券で市場平均並みの収益を狙う「パッシブ型」投信だ。
東証株価指数(TOPIX)連動型の信託報酬は年0.4%からニッセイアセットマネジメントと同じ0.18%に、国内債券型は0.4%から大和証券投資信託委託と並ぶ0.14%に見直す。ともに業界最低水準となる。
(中略)
eMAXISシリーズの純資産残高は計約2300億円だが、インターネットで手数料のより安い投信を選ぶ個人の台頭で残高が伸び悩んでいた。
「常に最低」を打ち出せば、過度な手数料の引き下げ競争に歯止めがかかるとの読みもある。
はっきり言って三菱UFJ国際投信は恐ろしいことをやろうとしています。なぜなら他社の競合ファンドの信託報酬水準に連動して信託報酬を引き下げるということは、見方を変えれば自社の採算を度外視するということだからです。これを見たときは、はっきり言って震えました。日本最大の金融グループであるMUFGが本気になってライバルに体力勝負を挑むということだからです。報道が本当なら、とんでもないことが起ころうとしているのです。

そもそも信託報酬の引き下げというのは運用会社(委託会社)の一存ではできません。信託報酬を分け合う信託銀行(受託会社)と銀行・証券(販売会社)の協力が不可欠。そしてeMAXISの場合、受託会社は三菱UFJ信託銀行ですから、恐らく委託会社と受託会社の間で合意ができているのでしょう。それはMUFGとして信託報酬の引き下げに取り組むということです。eMAXISは全国の地銀や中堅・小手の証券にまで販路を広げており、これが信託報酬引き下げの障害になっていると思われていたのですが、MUFGとして本気で押し出してくれば、販売会社が逆らえるわけがない。逆にあれだけの数の販売会社を説き伏せることができるのは、三菱UFJ国際投信単独の力ではなく、MUFGとしての"意志"を示したからに違いないと想像してしまいます。

もし本当にeMAXISが「常に最低」の信託報酬を打ち出せば、ライバルは逆に動きが取れなくなります。なぜなら、eMAXISを下回る水準にまで信託報酬を引き下げた途端、eMAXISもそのレベルまで信託報酬を引き下げる。あとは体力が続く限りの総力戦に突入します。日本最大の金融グループであるMUFGが採算を度外視してまで総力戦を戦うという意志を示したのに対して、あえてそれに挑む金融グループがあるでしょうか。そうなると事実上、eMAXISの信託報酬水準が業界全体のアンカーとなります。日経新聞の記事にあるように「過度な手数料の引き下げ競争に歯止めがかかるとの読みもある」ということであり、それこそが"業界最低水準は、俺が決める"というMUFGとしての"意志"なのではないでしょうか。"三菱、恐るべし"と言わざるを得ません。

eMAXISは、シリーズ全体での純資産残高が2000億円を超えるインデックスファンドシリーズ最大手ですが、ここ数年の低コスト競争で後れを取り、その存在感は低下の一途をたどってきました。しかし、ここにきて強烈な方法で逆襲に転じようとしているのかもしれません。しかも、信託報酬を圧倒的に引き下げることで、逆に低コスト競争に終止符を打とうとしているなら、その深謀遠慮は恐ろしいものがあります。やはり"三菱、恐るべし"なのです。

一方、日本の投資環境に画期的な変化をもたらす可能性もあります。それはeMAXISの販路の広さが与える影響です。現在、eMAXISはネット証券だけでなく63の銀行・証券で販売されています(2月9日現在)。これら販路でも業界最低水準の信託報酬となったeMAXISが販売されるとなるとどうなるか。これまで"超"低コストインデックスファンドを購入できるのは、ネット証券を日常的に使いこなせるリテラシーを持った人だけでした。しかし、地銀や中堅小手の証券でも信託報酬が引き下げられたeMAXISを買うことができるとなると、もはや"超"低コストインデックスファンドは、日本人の誰もが簡単に購入できる商品となります。それはインデックス投資の普及という面から考えても、計り知れないインパクトがあるでしょう。

それ以外にも、今回の報道を見ていろいろなことを考えてしまいました。ただ、まだ新聞報道の段階ですから、これ以上断定的なことを書くのは止めて、正式発表を待ちたいと思います。しばらくは三菱UFJ国際投信とeMAXISの動きから目が離せません。
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