2017年2月5日

「投資は危ない」「株だけはやるな」の正しい意味



日本では株式投資について妙な偏見があって、「投資は危ない」とか「株だけはやるな」ということを真面目に言う人が多数派です。こういう認識は教育現場でも浸透しているぐらいで、相互リンクいただいている大雪さんの記事は、そういった状況をよく示していました。

常識的に、株はやっぱり危険物という認識(毎月2~3万のインデックス投資)

せっかく学校の授業で株式の仕組みについて勉強したのに、「その授業の最後に先生がこう言ったそうです。「株だけはやるなよ」」でズコー。でも、この先生は完全に間違っているわけではあません。実際に投資は、やり方によっては危険なのです。「株だけはやるな」というのは、そういう特定の投資手法についての戒めが一般化した言葉なのでしょう。だからこそ「投資は危ない」「株だけはやるな」という言葉の正しい意味を理解することが必要だと思うのです。

私はたまたま株式を保有することがあたり前の家庭で育ったので、物心ついたときから「大人になれば株というものを持つんだ」と思っていました。でも、こういった家庭は少数派だということに大人になって気づきます。逆に「『株だけはやるな』が家訓」といった家庭も多いのです。

なぜこういった考えが一般化しているかというと、実際に株で損をして大変なことになった人が多いから。そういった話を聞いたり、あるいは身近な人が株式投資で失敗して一家離散したりするのを見て、やっぱり「投資は危ない」「株だけはやるな」ということになる。

ところがよくよく見てみると、世間一般で株式投資が原因で破産したたりする人の投資手法というのは、ほとんどがレバレッジをかけた信用取引や空売りの失敗です。そりゃ、信用取引や空売りは危ないですよ。だって、借金をして株式に投資するわけですから。

なぜレバレッジをかけた信用取引や空売りが危ないのかというと、損失がマイナス方向に無限大に広がるからです。例えば現物で100万円分の株を買ったとして、その企業が倒産しても100万円を失うだけですが、レバレッジをかけた信用取引なら、借金という形で損失がマイナス方向にどんどん拡大する。

空売りの場合も原理として損失は無限大です。なぜなら空売りは株が値下がりすれば儲かりますが、株価の下限は0円までしかありません。逆に株価が上昇すれば損することになり、株価の上限は理屈としては無限大だからです。相場格言にある「買いは家まで、売りは命まで」とはよくいったものです。

だから、世間一般で言われる「投資は危ない」というのは、正しくは「信用取引のように借金をして投資するのは危ない」という意味であり、「株だけはやるな」というのは「レバレッジをかけた信用取引や空売りはだけはやるな」という意味です。そしてこれは、一般庶民の個人投資家の投資姿勢としてまったくもって正しいのです。

ちなみに菟道家は祖父以来三代に渡って株式投資を嗜んできましたが、レバレッジをかけた信用取引と空売りは御法度。これは、じっちゃんの教えであって、父も私が物心ついたときから「借金をして投資してはいけない」ということを常に口にしていました。「投資は危ない」「株だけはやるな」を正しい意味で解釈していたのだと思います。

危険な投資手法さえ取らず、個別株にしろ投資信託にしろ、現物を買って保有しているぐらいなら、投資はとくに危なくない。損してもせいぜい余裕資金が減るぐらいです。それで生活がおかしくなるようなら、それはそもそも余裕資金ではないお金を投じていたということです。

このほど金融庁が「家計の安定的な資産形成に関する有識者会議」を立ち上げ、「家計に対する実践的な投資教育や情報提供」の在り方を議論するそうです。すでに第1回の会議も開催されました。

「家計の安定的な資産形成に関する有識者会議」の設置について(金融庁)
「家計の安定的な資産形成に関する有識者会議」(第1回)議事次第(同)

日本はまだまだ投資に対する理解が偏っているので、金融教育の在り方を含めて金融庁がこういった議論をするのは良いことです。まずは、一般庶民の投資において何が「危険」なのかという常識的な判断基準を議論して欲しいものです。そうすることが結局は「投資は素敵だ」「株を持つことは楽しい」という認識を育てることになると思います。やがて学校の先生も授業で「株式というのは上手くできた仕組みだ。ただし、借金をしてまで株はやるなよ」と堂々と言える時代になって欲しいものです。

【補足】
私は別に信用取引や空売りを否定していません。それも投資のやり方だし、流動性の供給という重要な役割があります。ただし、一般庶民の投資手法としてはなじまないと思う。だから、レバレッジをかけた信用取引や空売りはプロに任せておけばいいんです。なぜなら、彼ら・彼女らは所詮、他人の金で投資しているので損失が無限大になっても、痛くも痒くもないからです(ただし、実際のプロは空売りをする際にきちんとオプションを買ったりしてリスクヘッジしてますよ)。

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