ここ数年、日本の投資信託も低コストで良質な商品が増え、ようやく普通の庶民でも安心して小口からの投資ができる環境が整ってきました。ただ、そういった良質な商品の存在に気付いている人は、まだ少数派だというのも事実。大手証券会社や銀行の“売れ筋投信ランキング”などを見ると、あいかわらず高コストなアクティブファンドや毎月分配型投信が上位を占めています。とくに毎月分配型投信に関しては、いまだに高い人気があり、日本の投資信託(ETFを除く)で純資産残高の多いものは、ほとんどが毎月分配型です。もちろん私は毎月分配型投信を購入している人を批判する気はさらさらありません。あくまで各人が納得も得心もして投資しているわけですし、そもそも毎月分配という仕組み自体に問題があるとは思っていないからです。しかし、日本で販売されている毎月分配型投信のほとんどは、商品としてダメだとも思うのです。なぜかというと、ファンドの目的と分配方針が矛盾しているから。ようするに商品として不誠実なのが問題なのです。
毎月分配型投信のデメリットとしてよく指摘されるのは以下の点でしょう。
1、複利効果を発揮できない
2、普通分配金に課税されることで課税繰り延べ効果が弱まる
3、特別分配金は元本の払い戻しにすぎない
いずれも資産の長期的な成長を目指すなら、確かにデメリットです。しかし、だからと言って毎月分配という仕組み自体がダメとは言えません。なぜなら投資環境によっては、これらデメリットが、逆にメリットとなる場合もあるからです。
例えば、複利効果を発揮できないのは事実ですが、複利効果はプラスにもマイナスにも働きます。上げ相場では分配金を出さないことで信託財産は複利で増加しますが、逆に下げ相場ではやっぱり複利で減少します。そう考えると分配金が出るというのは、ある意味で随時利益確定を行うことでリスクを低下させる効果もあるのです。特別分配金によって元本が払い戻されれる場合も、やはり上げ相場では機会損失ですが、下げ相場では上手く市場から資金を引き上げることができたと解釈することも可能です。
だから、毎月分配型投信の問題点は毎月分配という仕組みにあるのではないのですが、それでもやはり日本で販売されている毎月分配型投信のほとんどは、商品としてダメだと言いたい。なぜなら、ファンドの目的と分配方針が矛盾しているからです。
モーニングスターのランキングによると、2016年12月末段階で日本で最大の純資産残高となっている投資信託はフィデリティ投信のフィデリティ・USリート・ファンドB (為替ヘッジなし)です。純資産残高はなんと1兆5097億円。その目論見書を読むと「ファンドの目的」の項目には以下のように記されています。
ファンドは、フィデリティ・USリート・マザーファンド(以下「マザーファンド」といいます。)受益証券を主要な投資対象とし、当該マザーファンド受益証券への投資を通じて、主として、米国の取引所に上場(これに準じるも のを含みます。)されている不動産投資信託(リート)に投資を行ない、配当等収益の確保を図るとともに、投資信託財産の長期的な成長を図ることを目的に運用を行ないます。
同じく純資産残高2位はアセットマネジメントOneの新光US-REITオープン(愛称:ゼウス)で、純資産残高は1兆4625億円です。そして目論見書の「ファンドの目的」の項目には、やはり次のように記載されています。
主として米国の取引所上場および店頭市場登録の不動産投信宅証券(以下「USーREIT」といいます。)に投資し、安定した収益の確保と投資信託財産の長期的な成長を目指して運用を行います。両ファンドとも共通しているのは、目論見書で「ファンドの目的」を“投資信託財産の長期的な成長”だと明言していることです。にもかかわらず、現在(2017年1月27日現在)のフィデリティ・USリート・ファンドB (為替ヘッジなし)の基準価額は4000円台。新光US-REITオープンに至っては3000円台です。投資信託は設定時に基準価額1万円からスタートしますから、まったく信託財産が成長していない。なぜなら両ファンドとも毎月分配型のため、過剰分配で信託財産を取り崩してきたからにほかなりません。
ここでは分配金を含めたトータルリターンがプラスかマイナスかは問題ではありません。それよりも、目論見書で受益者に対して約束している「ファンドの目的」と分配方針が矛盾しており、そのために「ファンドの目的」が達成できないことの方がよほど問題です。なぜなら、それは結果的に受益者に対して嘘をついていることになるから。そういう嘘を平気で書いたり実行する姿勢が極めて不誠実なのです(ちなみに、そういった不誠実な姿勢が「分配金利回り」などという悪質な“営業用語”を生み出す温床となったのです)。
結局、日本の毎月分配型投信の問題というのは、毎月分配という仕組みがダメなのではなく、商品自体が極めて不誠実な内容になっているということに尽きます。それは突き詰めると、受益者をバカにしているという意味です。この一点を以てして、日本で販売されている毎月分配型投信のほとんどは“買ってはいけない商品”でしょう。これこそが日本の毎月分配型投信がダメな理由なのです。
【補遺】
毎月分配型投信について厳しいことを書きましたが、ここにきて運用会社も少し反省しているようです。例に挙げたフィデリティ投信も分配方針について見直しを進めることを表明しています。
フィデリティの分配金の考え方(フィデリティ投信)
金融庁の指導も厳しくなっているので、こういった流れは今後も加速するでしょう。それは受益者にとっても良いことです。また、受益者の中には安定的に分配金を受け取りたいというニーズもあります。そういった人は毎月分配型投信ではなく、ぜひETFを買うべきです。ETFなら決算ごとにインカムゲインは基本的にすべて分配金として受益者に支払われますし、キャピタルゲインによる信託財産の成長も狙えるからです。