2017年1月22日

受益者の存在がファンドの品質を磨き上げる時代に



私の家は祖父から三代に渡って株式投資を嗜んできましたが、父の代まで投資信託という仕組みに対して否定的でした。父はいまだに「投資信託はボッタクリのインチキ商品だ」と公言して憚りません。しかし、そういう感覚というのはある時代までは至極真っ当な認識だったのも事実です。それほど日本の投資信託は、アクティブファンドを中心に高コストで運用成績も冴えないという劣悪な品質の商品が多かったからです。そんな日本の投資・運用業界の悪弊はいまだに続いているともいえます。しかし、その状況を変える存在としてあるのが一部の良質なアクティブファンドと、低コストなインデックスファンドです。ここ数年、インデックスファンドを中心に日本の投資信託の品質が劇的に向上しています。こうした動きは、ファンドと受益者の関係を大きく変えようとしています。本当の意味でファンドと受益者が協力することで運用の品質を高めることができる時代が来ようとしているように感じます。

インデックスファンドの場合、品質の良し悪しはほぼコストと運用精度に収斂します。より低コストで、できるだけベンチマークから乖離しない運用を継続することが高品質なファンドということになります。では、そうしたファンドの品質を支える物理的基盤は何なのでしょうか。それこそ受益者の存在しかありません。

例えば、アセットマネジメントOneの「たわらノーロード先進国株式」は信託報酬こそ業界最安値ではありませんが、運用の精度や実質コストの低さという面では素晴らしいものがあります。なぜ高い運用精度を実現できるのか。それはマザーファンドが巨大だからです。つまり、多くの受益者の存在があるからこそ高い品質を実現できている。

ニッセイアセットマネジメントの「<購入・換金手数料なし>ニッセイ外国株式インデックスファンド」は昨年にちょっとしたトラッキングエラーが発生しましたが、過去2度にわたって断続的に信託報酬を引き下げるという素晴らしい実績を残しています。なぜ信託報酬を引き下げることができたのか。それはファンドの純資産残高が順調に拡大したからです。やはり、多くの受益者の存在があるからこそ高い品質を実現できている。

一方、「たわらノーロード先進国株式」が信託報酬を引き下げるという報道が一部でありましたが実際はまだ引き下げられていません。でも、それを不満に思うのは時期尚早でしょう、なぜなら、まだファンドの純資産残高が60億円程度と小さいのだから。つまり、信託報酬の引き下げが可能になるには、まだ受益者の規模が足りないのです。

「<購入・換金手数料なし>ニッセイ外国株式インデックスファンド」の運用精度に対して不安を感じる人も多いかもしれません。でも、それをもってファンドの品質に見切りをつけるのは時期尚早でしょう。なぜなら、まだマザーファンドの規模が600億円台と小さいから。つまり、運用精度が更に安定するようになるには、まだ受益者の規模が足りないのです。

何が言いたいのかというと、両ファンドとも更なる品質向上のためには受益者の力が必要だということ。「たわらノーロード先進国株式」は、もっとファンドの純資産残高が増えることで信託報酬を引き下げる前提条件が整います。「<購入・換金手数料なし>ニッセイ外国株式インデックスファンド」は、もっとマザーファンドが大きくなることで運用精度が一段と高まる蓋然性が高まります。どちらも必要なのは受益者の力です。

かつて日本の投資信託の多くは受益者の利益よりも運用会社や販売会社の利益を重視しているとしか思えない行為を繰り返してきました。そんな時代にあっては、受益者も“少しでも儲かりそうな商品”を探してファンドを使い捨てにしてきました。それは受益者が悪いのではありません。それ以前にファンドが受益者を使い捨てにしてきたのですから。

しかし、本当の意味で受益者の利益を真摯に尊重する良質な投資信託が存在するなら、今度は受益者側の志が問われます。なぜなら、ファンドの品質を高める物理的基盤は、どれだけ受益者がそのファンドを信じて、受益者であり続けることができるかに左右されるようになるからにほかならないからです。

いまやインデックスファンドの低コスト競争は最終局面ともいえる段階に入りつつあります。それは運用会社単独の努力で品質を高めることができる段階を過ぎたということです。まさに受益者の存在がファンドの品質を磨き上げる時代に入ろうとしているのです。そして、それは素晴らしいことでもあります。

投資信託には信託報酬という仕組みがある以上、運用会社・販売会社と受益者の間には常に利益相反の芽が内包されています。そして、その利益相反の芽を回避するためには運用会社・販売会社の誠意と受益者の信頼が必要不可欠です。そこにこそ“信託”という通常の所有とは異なる仕組みの魅力と強みがあるはずです。

そして、ファンドと受益者が互いに協力することでファンドの品質を高めていくことができる時代がようやく日本でも始まったと考えれば、やはりそれは両者にとって素晴らしいことでしょう。
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