2016年12月13日

庶民の資産形成にとって、まずはiDeCo+積立NISAで十分だ



すでにニュースになっていますが、自民党が12月8日に発表した「平成29年度税制改正大綱」に積立NISAの創設が盛り込まれました。

平成29年度税制改正大綱(自由民主党)

順調に税制改正が実施されれば、新たに年間40万円まで20年間の非課税口座での運用が認められることになります。報道によると、当初は財務省の抵抗で「年間60万円・10年間」で決着しかかったものが、金融庁の森信親長官が「安定的な資産運用には20年が必要」として政府・与党に直談判し、年間投資上限額を40万円に引き下げる代わりに20年間の非課税期間を認めさせたそうです。

積立NISA、20年で決着=非課税期間-政府・与党(時事通信)

あいかわらず森長官の行動には瞠目すべきものがあります。本気で日本に長期投資による資産形成を根付かせようといしていることを今回もまざまざと見せつけたわけです。それでは年間投資上限額40万円をどのように評価すべきでしょうか。まだまだ額が小さいという批判もあるようですが、それは贅沢な要求というものでしょう。なぜなら庶民のために政府が用意している老後に向けた資産形成のツールとしては、NISAのほかに個人型確定拠出年金(iDeCo)もあるからです。はっきり言って庶民の資産形成にとって、まずはiDeCoと積立NISAがあれば十分だともいえるのです。

税制改正大綱に盛り込まれた積立NISAについての概観は、安房君が上手くまとめてくれています。

「積立NISA」の大綱を概観(海舟の中で資産設計を ver2.0)

まず驚くのが、対象となる金融商品は投資信託とETFが中心となるけれども、毎月分配型やオプション取引を組み込んだブルベア型や通貨選択型、二階建て・三階建てファンドを明確に否定していることです。ここに森長官率いる金融庁の明確な意思を読み解くことができます。すなわち、積立NISAはあくまで国民の長期的な資産形成のための制度であり、短期的な利益を追求するような使い方は許さんということです。

なぜ森長官が直談判までして、こんな制度を作ろうとしているのか。それは、既に森長官自身がインタビューなどで語っている内容から容易に想像できます。つまり、財政的な制約から縮小が避けられない公的年金を補完するためにも、国民の自助努力を後押しする制度を作る必要があるという問題意識です。その意味で積立NISAの創設は、2017年1月1日からiDeCoの加入資格者が大幅に拡大されるのと同一の問題意識の上にあるといっていいでしょう。
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そもそも社会保障というのは公助、共助、自助のバランスで成り立つものですから、公助が弱まるなら、自助を強化する制度的裏付けを作るというのは国家として当然の責務です。その面では、森長官以下の官僚たちは、官僚としてまともな国家意思を持っているといえます。

さて、積立NISAが創設されれば、年間40万円までを20年間非課税口座で運用できるわけです。これを多いと見るか、少ないと見るか。まだまだ金額が小さいという見方もあるようですが、それは贅沢というものでしょう。なぜなら積立NISAのほかにiDeCoが用意されていることを合わせて考えれば、国民は積立NISAで40万円、iDeCoで27万6000円、合計67万6000円を毎年非課税口座に積み立てることができる。月額に直せば、積立NISAに3万3000円(端数は分配金が出たときの予備枠にすればいい)、iDeCoに2万3000円ですから、合計5万6000円です。

普通の庶民なら、毎月5万6000円を積立に回すことは簡単なことではありません。手取り30万円の人でも収入の20%近くを将来に向けた備えに回すわけですから。はっきり言って庶民の資産形成としては、これでも十分な金額です。実際に毎年67万6000円を積立NISAとiDeCoに積立・拠出すれば20年で元本だけでも1352万円になります。これを年利数%で運用するだけでも、庶民の資産形成としては十分なレベルです。

もちろん、安房君が指摘するように「別に、枠が大きいからといって全額埋めなければならないわけではないのですから、余力がない人はその余力なりに埋めればよいだけです。それよりも、政府の言うとおり自助努力による資産形成をしようというのにその枠が低く抑えつけられてしまう方が問題でしょう」という指摘も一理あるのですが、ひとつ忘れてはいけないのは、NISAにしてもiDeCoにしても、そもそも非課税口座というのは経済的弱者のために用意されているものだということ。つまり格差是正を目的とした一種の再分配政策の要素があるのです。ようするに、経済的に余裕があって、非課税口座の投資上限を超えるだけの貯金や投資ができる人は、普通に課税口座で自助努力をしてくださいというのが国のメッセージに違いありません。

経済的に余裕のある人は、ある一定上の自助努力については課税口座で行わなければならないのは不公平でしょうか。そうではなないはず。なぜなら、日本では利子・配当など金融所得は分離課税が適用されますから、税率は現行でも一律20%です。通常の所得なら累進課税が適用されますから、もともと金融所得への課税は金持ち優遇の仕組みなのです。だから、お金持ちは元々有利な税制を利用して、思う存分に資産形成すればいいのです。

今後、順調に積立NISAが創設されれば、普通の庶民の資産形成・運用は、まず預貯金のほかは積立NISAとiDeCoを軸に行えばいいということになるでしょう。その上で、さらに経済的余裕が出てくれば、あとは通常の課税口座で資産形成・運用すればいい。そのためには、ちょっとした勉強と行動するだけです。それさえできれば、今の日本を覆う漠然とした将来不安もかなり和らぐのではないでしょうか。

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