「さわかみ」イズム継ぐ若き元俳優運用者、手法でカリスマと一線画す https://t.co/xesNEeL4xv pic.twitter.com/ciZBl3dH87— ブルームバーグニュース日本語版 (@BloombergJapan) 2016年9月28日
もし日本の投資信託の歴史を書くなら、さわかみ投信の「さわかみファンド」は設立者である澤上篤人さんとともに1章を充てて記述されるような存在です。それくらい澤上さんがやった独立系直販投信という試みは画期的なものでした。だから、いまでもさわかみファンドは澤上さんの存在とイコールと認識されています。ただ、じつは澤上さんは既にさわかみファンドの最高投資責任者(CIO)を退任しています。現在のCIOは草刈貴弘さんです。その草刈さんに注目した記事がブルームバーグに出ていました。
「さわかみ」イズム継ぐ元俳優運用者、手法でカリスマと一線画す(ブルームバーグ)
なんと元舞台俳優という異色の経歴です。もしかしたら澤上さん、なかなか面白い後継者候補を見つけたのかもしれません。
じつは草刈さんのことは前々から少し興味がありました。というのも、さわかみファンドの運用報告会に参加した人が「新しい運用責任者は若いが、なかなかしっかりした考えを持っていることがわかった。さわかみファンドを解約しようと思っていたが、もうしばらく保有することにした」といったことをSNSに書いているのを見かけたからです。また、最近では澤上さんと草刈さんによる共著や対談記事をよく見かえるようにもなりました。
それでブルームバーグの記事を読んでちょっと驚きました。草刈さんは元舞台俳優で、住宅ローン会社を経てさわかみ投信に入社するという異色の経歴です。澤上さんのセミナーに参加して感動し、ゼロから投資を学び、アナリストを経て2010年からファンドマネージャーに就いたそうで、まるで漫画みたいな話です。
13年からはCIOに就いた草刈さんは、さっそく大胆なポートフォリオの組み換えに着手します。
「さわかみファンド」の保有銘柄数をピーク時の358社から約100社に減らす一方、1銘柄当たりの投資金額を増やし、保有企業への関わりを強めて成長を促す戦略に転換した。時価総額5000億円以下の企業で、発行済み株式に対する保有比率が1%以上となる銘柄を増やしていく方針で、これまで組み入れ経験のないIT、海外企業も投資対象として視野に入れる。澤上さん流の入金投資法から、ややアクティビスト的手法への転換が読み取れます。また、銘柄選択のユニバースも澤上さんがどちらかというと大型株を好んだのに対して、草刈さんは中小型株や新興銘柄にも注目しているようです。ある意味で草刈さんの投資戦略の方が今風なのでしょう。
草刈氏はブルームバーグ・ニュースのインタビューで、これまでの運用は「バイ・アンド・ホールドで市場にお金を投じるという考えが強かったが、私はあくまで個別企業の株価と企業価値を比べて投資する」と話した。
べつに草刈さんの投資戦略が良いとか悪いとか言いたいわけではありません。ただ、ファンドマネージャーとして明確に投資戦略を明らかにし、実行していることは評価できるのでは。そもそもアクティブファンドというのはファンドマネジャーの個性によって運用が行われるものですから、ファンドマネージャーが交代すれば、そのファンドは名前は同じでも別のファンドになったと考えるべき。だから、きちんと自分の考えに基づいて運用しようとしている草刈さんの姿勢は、前例踏襲型の運用で良しとしている大手運用会社の匿名サラリーマンファンドマネージャーと比べて、はるかに正しい。
それでも投信会社として守らなければならない点もあります。それは運用の哲学・理念です。それさえ受け継がれていれば、投資戦略などは時代の変化に合わせていくらでも変わっていいし、時には変わらなければならない。そして、さわかみファンドの理念を草刈さんは「顧客のファイナンシャル・インディペンデンス」と捉えている。それが、さわかみ投信がこれまで唱えてきた“一般生活者の財産づくりを本格的な長期投資でお手伝いする”という理念と矛盾しないかどうかを受益者が判断すればいいのです。
だから草刈さんは、運用の理念さえ引き継いでいる思うならば、引き続き自由に自分がやりたい方法で運用すればいい。さわかみファンドの受益者は、新しい運用戦略に同意できなければ、ファンドを自由に解約できるわけですから。同時に、草刈さんの投資戦略を支持して、新たにファンドを保有する人も出てくるでしょう。そうやってファンドと受益者ともに新陳代謝が行われる。それががアクティブファンドに投資するということです。
さわかみファンドも従来のさわかみファンドとは別のファンドになったということです。その転換が正しいのか正しくないのかは、運用成績が示してくれるでしょう。ちなみにモーニングスターのサイトを使って調べたところ、草刈さんがCIOに就任した13年から16年8月31日までのさわかみファンドの3年間トータルリターンは+9.18%。これに対してTOPIX(配当込み)のトータルリターンは+8.45%ですから、いまのところ市場平均をアウトパフォームしています。
あくまで個人的な印象ですが、なんとなく澤上さんは面白い後継者候補を見つけたように感じます。元舞台俳優という経歴が気になるかもしれませんが、アクティブ運用というのは知識や技術だけでなく感性やセンスがものをいうケースも少なくありません。だから、ユニークな経歴の方が、かえって底が見えず、期待できるかもしれません。そいう意味でも草刈さんの今後の動きにちょっと注目してみようと思いました。
【蛇足】
現在、さわかみ投信は澤上篤人さんが会長、実子の澤上龍さんが社長です。澤上さんからすれば、投信会社の経営は息子に、運用責任者の地位は草刈さんに譲るという形になりました。ちなみに澤上龍さんも元サーファーという異色の経歴。元サーファーと元舞台俳優が2トップの投信会社とは、なかなかユニークです。ここからはサラリーマン的ゲスの勘繰りですが、澤上龍さんと草刈さんの関係はどうなんでしょうかね。二人が良好な関係を維持するために老婆心でアドバイスすると、草刈さんは澤上龍さんをバカにしてはいけません。澤上龍さんはオーナーなのですから。一方、澤上龍さんは草刈さんに嫉妬してはいけません。有能な使用人を信頼するのはオーナーの徳だからです。