2016年9月22日

銀行で複雑な金融商品を売るという無理矛盾



最近、定期預金がいくつか満期を迎えることもあってか、やたらと銀行から営業の電話がかかってきます。さすがに赤い銀行のように「平日の15時までに支店においでいただけませんか」といったサラリーマンの生活実態を無視した話は無視せざるを得ないのですが、水色の銀行からは「18時以降でも対応可能」との提案が。ちょっと面白そうだったので資産運用の個別相談なるものに行ってきました。そこで、銀行が店頭販売している金融商品を紹介をされたのですが、良い意味でも悪い意味でも、いろいろと考えさせられました。

銀行の個別相談といえば美人の女性銀行員さんが対応してくれると相場は決まっています。ワクテカしながら出かけたのですが、対応に出てきたのは20代後半から30代前半とおぼしきイケメンの男性行員。この段階でモチベーションがダダ下がりに。

相談では、まずは口座情報を確認した上で投資経験などを簡単に聞かれ、リスク許容度や金融商品に対する知識レベルを探られます。この辺で顧客の嗜好を探ろうとしているようで、なんだか妙な神経戦のようになってしまいます。こちらとしても、あまり詳しいと思われるのも嫌だったので、個別株を持っていること、確定拠出年金で投資信託を保有していることぐらいを話しました。

さっそく具体的な商品の提案に入るのかと思いきや、さすが最近の銀行は慎重です。なかなか銀行員の方から具体的な商品を出してきません。ようするに顧客の側から「こんな商品が欲しい」「高い利回りの商品はないのか」と言われるのを待っているいるのです。あくまで顧客からの要望で商品を紹介したという形を作ることがコンプライアンス上、必要なのでしょう。ここでもジリジリとした神経戦のようになってしましました。

思い切って「例えば長期の運用になってもいいから、ある程度の利回りが期待できる商品はあるのか」と聞いてみました。すると紹介されたのは窓販の貯蓄性保険。はじめは大人しく円建て商品の話をしているのですが、最後はやっぱり「為替リスクがありますが」という前置きを経て外貨建て保険の話になります。うーん、こうやって顧客に薦めるわけですね。ここで、チラッと「でも窓販保険は手数料が高いらしいからね」と牽制球を入れたところ「そうですね。最近はそう言う指摘もあります」とかなんとかムニャムニャいって、さらりと引き下がるのがおかしかった。

次に「元本割れのリスクがありますが、確実に金利を確保する商品もあります」といって出してきたのが、日経平均連動のノックイン債券でした。それで商品の説明を聞いたのですが、肝心の仕組み債の「仕組み」自体の説明がありません。思い切って「そもそもこの債券が高い利回りを確保できる仕組みは、どうなっているのですか」と聞いてみました。その答えが非常にあいまい。「商品の反対側にお客様とは反対の条件に賭けている人がいて、その取引と相対することでこの債券の金利が作られています」とか。たぶんオプションの売りと買いの関係を言っているのだろうけど、その説明では普通の人は分かりませんよ。あげくの果てには「大まかなイメージでとらえてください」と言いだす始末。いや、大まかなイメージではダメでしょうが。

このあたりが潮時だと思い「ようするにこの債券は、オプション取引を組み込んでるわけね。オプションの売りをして、そのプレミアムを金利の原資にしているのですね」と言ったとろ、ちょっと驚いた風で「そうです。お客様、詳しいですね」と言われました。この段階で複雑な金融商品を売るのは無理と思われたらしく、後は大人しく定期預金の使い勝手や「おたくの銀行はATM手数料や振込手数料が無料になる優遇サービスが充実していて良い」「そのあたりは業界でもナンバーワンだと自負しています」などとフレンドリーに談笑して相談会を終えました。

顧客の嗜好にも問題がある


銀行で金融商品の具体的な提案を受けるのは初めてでしたが、あらためていろいろと考えさせられたことがあります。それは、身も蓋もない話ですが、そもそも銀行で複雑な仕組みの金融商品を売るのは無理だということです。

今回の場合なら、ノックイン債券が典型的。仕組み債の「仕組み」を説明するためには、オプション取引に関する説明が不可欠なはずですが、銀行に相談に来る人に対して、デリバティブ取引の仕組みを説明し、理解させることなど現実的に考えてできるわけがないのです。そして、そういった仕組みを理解できる人は、そもそも銀行で仕組み債など買わない。となると、銀行で仕組み債のような複雑な仕組みの金融商品を売ること自体が矛盾しているのです。

なんとなく銀行員も気の毒です。どう考えても仕組みを理解するための基礎知識がないであろう顧客に対して、複雑な仕組みを説明しなければならないのだから。あげくの果てには「大まかなイメージでとらえてください」といった、およそ金融取引の現場に似つかわしくない言葉が登場する。でも、現実は大まかなイメージすらつかめない顧客が多いだろうことは想像に難くない。

また、現在の銀行は決して強引な勧誘を行っていません。あくまで顧客からの要望に沿って商品を提案するという形式を遵守していることが分かりました。それでも複雑な仕組みの金融商品が売れてしまうのは、顧客が「もっと儲かる商品を教えろ」「もっと金利の高い商品はないのか」といった要望を銀行員にぶつけているからという側面があります。地味でも堅実な商品は人気がないのです。そういう顧客の嗜好に応える形で、どんどん複雑な商品が銀行のラインアップの中で増えていく構造になっています。

それでいて顧客の方に金融商品の仕組みに関する知識が無く、自分で学ぼうとする意識も低いのでしょう(自分で勉強するような人は銀行に相談などしません)。そういう顧客の嗜好が、金融商品の販売をじつに不毛な営みにしてしまっているという側面も無視できません。結局、いまのようなに相談した相手が販売している商品を買うという販売方法では、銀行が複雑な金融商品を売るということ自体がどだい無理なのです。

そう考えると、リスクのある金融商品が健全に販売されるための方法はひとつしかありません。かりに銀行のような販売会社がコンサルティング機能も発揮したいとするなら、商品ラインアップを根本的に見直すべきなのです。つまり、複雑な仕組みの商品ばかりでなく、地味でも堅実で良心的な商品をそろえ、それを顧客の真のニーズに合わせて紹介することです。

それができないのなら、コンサルティングと販売は完全に分離されるべきです。つまり、相談した相手から買ってはいけないということ。そして実際に、最近では金融リテラシーの高い人を中心に銀行で預金以外の金融商品を買ってはいけないということは、なかば常識化してきました。それは銀行にとって将来の収益基盤が危ういことを意味します。

そのあたりのことにいち早く気づいて、本当の意味でのコンサルティング機能と真に顧客のニーズに適した商品ラインアップをそろえた提案をできる銀行が、将来的に勝ち組になるのではないでしょうか。
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