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2016年9月15日
"投資で儲ける=他人を出し抜くこと"という発想が投資詐欺を引き寄せるのでは
あいかわらず投資詐欺事件が定期的に起こっています。最近も日経225先物で運用すると謳って資金を集めながら、実際は運用せずに配当に回すという典型的なポンジスキーム事件が起こりました。事件自体はありふれたものなのですが、ちょっと驚いたのが被害者の面々。なんでも江角マキコさんや布袋寅泰さん、そしてGACKTさんも被害に遭っていたそうです。
先物投資詐欺の疑いで会社役員ら逮捕 113億円集金(「日本経済新聞」電子版)
投資詐欺で47歳男再逮捕 江角 マキコさん、GACKTさんらも被害(FNN)
とくにGACKTさんはテレビでは本物を見抜くセレブ系キャラで売っていただけに、投資詐欺に遭うというのは何とも言えない微苦笑を誘います。それはまあ冗談として、不思議に思うのが、日本では投資という行為自体はあまり一般的ではないのに、投資詐欺事件だけは一人前に頻発するということ。なぜなのかいろいろと考えていたのですが、ふと思ったのは、"投資"という行為に対する認識がどこかずれている人が多いからではないでしょうか。つまり、"投資で儲ける=他人を出し抜くこと"と思い込んでいるケースがある。そういった認識が詐欺師を引き寄せるし、ついつい詐欺師の甘言を信じてしまう土壌になっているような気がします。
日本では投資に対して、いろいろな偏見があるのですが、そのひとつが投資をギャンブルと同じゼロサム・ゲームもしくはマイナスサム・ゲームだと考えることです。この場合、誰かが儲けるということは、誰かが損をしなければなりませんから、投資で儲けるということは他のプレイヤーを出し抜かなければならないという発想になるわけです。
もちろん、短期売買などではこうした側面が実際にありますから間違いではないのですが、それが投資のすべての本質というわけではないでしょう。とくに株式投資などは企業の成長によるプラスサムのゲームとなることが十分ありえます。その場合、投資で儲けるために他人を出し抜く必要はないはずです。
投資で儲けるためには他人を出し抜かなければならないという発想が強くなりすぎると、人よりも早く情報を入手する必要があるという気持ちになります。こういった気持ちが高じると、「インサイダー情報を持っていなければ投資には勝てない」と思ってしまう。確かにインサイダー的な情報を持っている人は有利です。しかし、インサイダー情報はそれこそ本物のインサイダーしか知りえないからこそインサイダー情報であるという当たり前のことを忘れてしまう。インサイダーでない人にもたらされる情報は、すでにインサイダー情報ではないのです(本物のインサイダー情報を入手して投資すれば、それはすでに犯罪です)。
また、他の人が知らない投資手法にいち早く参入すれば、やはり他人を出し抜けるという考えも持ってしまう。するとついついマイナーな投資手法や投資対象が魅力的に見えてくる。突拍子もない投資手法や投資対象であればあるほど、ますます魅力的に見えてしまうから厄介です。
こういう感覚をこじらせたときに、悪徳な情報商材屋や詐欺師が近寄ってくるのでしょう。ほとんどの詐欺事件は、発覚後に冷静になって見れば「そんなの最初から怪しいだろう」と思うような突拍子もないスキームを謳っている場合が多いのですが、じつは突拍子もないスキームだからこそ「他人を出し抜きたい」という思いに犯されている投資家を惹きつけるのです。
投資詐欺に遭わないための心得というのはいろいろあります。例えば政府広報オンラインにも「投資詐欺にご注意を 気をつけるべき6つのポイント」といった注意喚起のリリースが出ています。こういったことを意識するだけで、投資詐欺に遭う危険性はぐっと減ります。ただ、より本質的なことを考えれば、やはり"投資で儲ける=他人を出し抜くこと"という発想を改める必要があるのかもしれません。
投資とは、誰かに「勝った」「負けた」といって一喜一憂するようなギスギスしたものではなく、もっと大らかなものであって欲しいし、そういった大らかな気持ちで投資できれば、詐欺師が囁く甘言を魅力的に感じることもなくなるのではないでしょうか。
禅問答のような話になりますが、もしかしたら「勝ちたい」「儲けたい」という気持ちを捨て去ったところに本物の投資の味わう境地があるのかもしれません(もちろん私は凡下の輩なので、いまだそういった境地には達していませんが)。