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2016年9月12日
貸株サービスが嫌いな理由―金融機関の信用リスクは意外と身近だぞ
ネット証券を中心に提供されているサービスに「貸株サービス」あるいは「預株」というものがあります。文字通り投資家が証券会社に保有株式やETFを貸すことで一定の金利収入を得るというものです。例えば私がよく使っているSBI証券は日本株・ETFだけでなく、米国株・ETFに関しても貸株サービスを開始することになり、ちょっとした話題になっています。
貸株サービスについて(SBI証券)
本邦初!「米国貸株サービス」提供開始のお知らせ(同)
貸株サービスは、投資家が長期保有する銘柄や塩漬けしている銘柄を証券会社に貸し出すだけで、配当だけでなく貸株金利からも収入を得られるわけですから、非常にお得なサービスに思えるかもしれません。でも、私は昔から貸株サービスが嫌いで、まったく利用したいと思いませんでした。その理由は、貸株サービスは金融機関の信用リスクを全面的に負うものだからです。そして、金融機関の信用リスクというものは、意外と身近なものだと感じているのです。
通常、投資家の保有株式・ETFなどは金融機関で分別管理されていますから、証券会社が破綻しても投資家の資産は保護される仕組みになっています。しかし、貸株サービスを利用すると、その間に証券会社が破綻すれば、貸株も一般債権の対象資産として債権者に回収されてしまいます。証券会社が倒産すると、貸株は戻ってこないということです。これは金融機関の信用リスクを全面的に負うことであり、そのリスクプレミアムとして貸株金利が支払われているわけです。
では、貸株サービスで貸し手である投資家に支払われている貸株金利は、リスクプレミアムとして適正でしょうか。これが分からない。例えば金融機関同士や大口の機関投資家が貸株した場合に受け取る金利はどれくらいなのでしょうか。これが公開されているなら、個人投資家に適用されている貸株金利の水準が高いのか低いのか比較の上で判断できるのですが、私は不勉強なので、やっぱり分かりません。分からい以上、余計なリスクは負いたくないし、負うべきでもない。
そもそも、私は証券会社を全面的に信用することができません。というのも、菟道家は祖父以来三代に渡って株式投資と親しんできましたが、過去にはいろいろとトラブルもありました。麻生さんの言葉ではありませんが、昔の証券会社というのは本当にヤバくて、私の祖父や父親も何度か担当の証券マンに“ダマ転(顧客からの預かり株券を黙って転売すること)”を食らわされてもめたことがあります。こういう体験の記憶が家庭で受け継がれていると、直接の被害に遭っていない私でも、いまだに証券会社を全面的に信頼できず、とても株式を貸し出そうとは思えないのです。
もっとも、これはあくまで個人的な感情論にすぎませんし、現在の証券会社は昔ほど酷くないでしょう。しかし、金融機関の信用リスクを全面的に負うことの重大さは、今も昔も変わりません。ほとんどの人は金融機関が破綻することなどめったにないと思っているのかもしれませんが、これが意外と身近なものなのです。例えば私の大叔父は山一證券の破綻で数千万円を失いました。母親は日産生命の破綻で加入していた個人年金保険の運用益の大半を失いました。どちらの場合も破綻は突然です。金融機関の破綻とはそういうものなのです。
私たちはすでに業界大手だった山一證券の破綻を歴史として知っています。そして現在、貸株サービスを積極的に提供しているネット証券各社は、証券業界全体で見れば中小小手、ぜいぜい中堅の規模です。そういった会社の信用リスクを投資家が全面的に負うことに対するプレミアムとして貸株金利が適正なのかどうかは、非常に判断が難しいのでは。
また、個別株はもともと個別企業リスクを全面的に負っています。これを貸株すると、そこに証券会社の信用リスクも加わってしまいます。ETFは個別企業リスクを回避できる素晴らしい商品ですが、これを貸株してしまうと、せっかく回避したはずの個別企業の信用リスクを負ってしまう。こうしたリスクに対するプレミアムとして貸株金利が見合うのかどうか、やはり判断が難しい。
投資の際のコストをコントロールすることは運用の大切なポイントですが、わずかゼロコンマ数%のコストを引き下げるために、かえって余計なリスクを背負い込むのは、あまり賢いことに思えないのです。コストの引き下げが品質の劣化につながっては意味がありません。私は、そういった本末転倒が嫌だから、貸株サービスが嫌いなのです。
もっとも、貸株サービスという制度自体は否定しませんし(市場の流動性を高めるための重要な役割があります)、“嫌い”というのはあくまで個人的な好悪の判断であって、貸株サービスを利用することが良いのか悪いのかという是非の判断はしていません。ただ、貸株サービスは貸株金利がリスクプレミアムとして適正であると判断した場合だけ利用する価値があるということです。だから、貸株サービスを利用している、あるいは利用しようと検討している人は、このあたりをよくよく考えてほしいと思うのです。
【追記】
記事を書き終わってから気づいたのですが、たわら男爵さんがすでに同じような指摘をしていました。
【悲報】VTの貸株金利0.3%(40代でアーリーリタイアしたおっさんがたわら先進国株でベンツを買うブログ)
私もたわら男爵さんとほぼ同じ判断をしていますし、雑所得リスクについてもまったく同感です。