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2016年8月5日

その資産、どこに保管されていますか?―難しい理屈を知って常識を忘れる



日本人はFXが大好きなのですが、ときおりなぜか注目を集めるのが海外のFX業者を使って取引する海外FXです。海外FXは利益への課税が分離課税ではなく総合課税となるので、大きく利益を出しても税金や社会保険料負担が大きく、それほど旨味があるとは思えないのですが。やっぱり国内規制を超えるハイレバレッジや、“最新のトレードテクノロジー”といった謳い文句に魅せられるのでしょうか。そしてお決まりのトラブルも定期的に起こります。最近、またまたニュースになっていました。

海外FX、8億円超被害か 投資金引き出せずゼロに(共同通信)

こういうトラブルは昔からよくあることで、まあ、今日も平常運転だなという感想を持ちます。ところが時代はさらに進んで、最近ではビットコインなど暗号通貨への注目も高まってきました。するとやっぱりニュースが流れてきます。

香港のビットコイン取引所で盗難、被害額7200万ドル 相場急落(ロイター)

やっぱり平常運転だなぁ。

べつに海外FXを否定しませんし、ビットコインもブロックチェーンの技術とかは非常に面白いと思うのですが、実際に運営している業者や取引所が信用できるのかというと別問題です。そして、投資家がなぜこういった被害に遭ってしまうのかというと、おそらく難しい理屈についてはいろいろと勉強しているのだけれど、もっと大切な常識を忘れてしまうからでしょう。それは「その資産、どこに保管されていいますか?」という素朴な疑問を持つことです。

投資の大原則に「よく理解できないものには投資しない」とありますが、これはなにも複雑な取引の仕組みが理解できない場合だけをさすのではありません。もっと常識的な問題として、肝心の投資対象資産がどういった方法で、どういった場所に保管されているのかが分かっていないものには投資してはいけないということです。そして、資産を保管している業者が、はたして信用できるのかというのも、それこそ常識に基づいて判断しなければなりません。

じつに単純なことですが、これが意外と軽視されている。例えば投資信託でも、ファンドを通じて受益者が間接的に保有している株式や債券は、どこに保管されているのでしょうか。即答できる人は、意外と少ないのでは。運用会社や証券会社ではありませんよ。投資信託の場合、資産を保管しているのは受託会社である信託銀行です。

目論見書を見ると委託会社として運用会社、販売会社として証券会社や銀行の名前が記載されていますが、同じ場所に受託会社として記載されている信託銀行が、ファンドの資産を実際に保管しているわけです。例えば私が保有している世界経済インデックスファンドの場合、実際に資産を保管しているのは三井住友信託銀行です。eMAXISバランス(8資産均等型)なら三菱UFJ信託銀行です。

同じように考えると、海外FXの資産は誰が保管しているのでしょうか。ビットコインは、どこに保管されているのでしょうか。あるいは海外FXの場合、海外FX業者がきちんと分別管理していると謳っています。でも、その海外FX業者を信用できるかどうか。投資信託の場合、三井住友信託銀行や三菱UFJ信託銀行を信用できると判断するのは、それこそ常識の問題です。だったら、その常識を働かせて海外FX会社が信用できるか判断すればいいだけなのですが、不思議なことに投資詐欺に遭う人はこの常識的な判断ができなかった。

このあたりに投資の盲点があるのでしょう。つまり、難しい理屈を知って、かえって常識を忘れるというという奇妙な状態に陥るのです。するとますますおかしな状態になる場合があり、それこそ常識的に考えて信用できそうにもない業者を、“信頼できる業者”として推奨し始めたりすることもあって始末に負えない。

日本では、まだまだ投資は庶民にとって一般的な行為ではありません。だから、投資について詳しくなると、みょうに自分が偉くなったような気になる。そういう勘違いが、市井人として持っていなければならない常識を失わせるのかもしれません。だから、自戒を込めて「常識的に考えて、怪しいだろう」という警戒心を常に持っておきたいものです。

ちなみに、こういったことを話すと、かならず「信用できるのは自分だけ」などといって、タンス預金に走ったりする人がいるのですが、これも常識的に考えて危険です。世の中不思議なもので、多額の現金や資産を手元に置いているときに限って、泥棒に入られたり火事に遭ったりする。だから、実際にこんなことも起こるのです。

山口組直系元組長宅に「空き巣」 現金3億円盗まれる(産経新聞)

このあたりにもやっぱり投資や資産運用に関する意外な盲点があるのです。

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