2016年8月6日

資産形成の第一歩は給与天引き貯金―心理的にQOLが下がりにくいことも利点



先日、同業他社の人たちと飲み会がありました。そこでちょっとしたお金の話題になり、私がFP3級の資格を持っているというと、ある20代の女性がえらく食い付いてきて「どうやったらお金貯まるんですか?」と聞かれました。なんでも近々、結婚する予定らしいのですが、婚約者が収入の不安定な職業についているので、家計は女性の方がしっかりと考えないといけないのだとか。なるほど、立派な考えだなぁ。こういう場合、いきなり投資とかを考えるのはまだ早い。まずはしっかりとした貯蓄体質を作ることが大切なので、給与天引き貯金をすることを勧めました。すると別のアラフォー女性が「そうそう、天引きだと知らないうちにけっこう貯まってるよねー」と援護射撃。そうなんです。給与天引き貯金の利点は、貯金していることを意識せずに貯蓄できることであり、心理的にQOL(クオリティ・オブ・ライフ)が低下しにくいのです。だからこそ今も昔も資産形成の第一歩は給与天引き貯金が王道とされてきたわけです。

その20代の女性会社員、学生時代からつき合っている彼氏と結婚する予定なのですが、その彼氏の職業がなんと総合格闘家。なんでも大学卒業後に一部上場の大手電機メーカーに勤めていたのですが、夢をあきらめきれず仕事を辞め、プロの総合格闘家に転身したそうです。正直、「若いっていいなー」と思ってしまいました。おじさん、もうそんなエネルギーがなくなってしまったよ。

ただ、残念なことに総合格闘技ブームも過去の話で、しかも彼氏は若手選手なので収入が不安定。そこで彼女の方がしっかりと家計を管理しようとしているそうです。こういう家計の場合、まずはかなり厚めの無リスク資産を形成することが最初の課題になります。だって彼氏が試合で怪我して欠場しちゃったら、しばらくは無収入になりますから。そこで貯蓄の方法となるのですが、やはりお勧めは給与天引き貯金です。例えば財形貯蓄制度などを活用するべきだと指摘しました。彼女の会社は私と同じく労働組合があり、労使協定を結んでいるので労働金庫の財形貯蓄制度が利用できるのです。

給与天引き貯金の利点はいろいろとあります。よくいわれるのは「収入-支出=貯蓄」ではなく「収入-貯蓄=支出」という家計のキャッシュフローの流れを作ることができるので、きちっとした貯蓄体質の家計を作ることができるという点にあります。これはまさにこの通りで、それこそ「知らないうちにけっこう貯まっている」という状態になるのです。

加えてもうひとつ強調したいのが、給与天引き貯金をしていると日常の支出場面で心理的な負担が少ない。貯金しようと思って節約意識ばかり強くなると、どうも生活がケチ臭くなって、ギスギスしてしまうと感じるのは私だけでしょうか。その点、給与天引き貯金なら、収入があった段階ですでに一定額を貯蓄していますから、極端な話、残った財布の中のお金は全部使っちゃってもいいのです。気楽にお金が使えるようになるので、貯蓄に励んでいても心理的にQOLが低下しにくいのです。

てな話をすると、彼女も「なるほど。さっそく労金に相談に行ってきます」ということになりました。よかたった、よかった。しっかり家計を管理して、未来の旦那さんが格闘技のトレーニングと試合に邁進できるといいですね。ちなみに日経新聞にも給与天引き貯金の有効性ついて分かりやすい記事が載っていました。

天引き貯蓄は20代前半から 10年後に年収相当目指す(NIKKEI STYLE)

ところで、給与天引きは心理的負担が少ないという利点を最大限活用しているのは、じつは国です。勤労者の大部分を占めるサラリーマンは税金や社会保険料が源泉徴収、すなわち給与天引きです。消費税を数%引き上げるという話になるとものすごい政治論争になるのですが、ここ数年の社会保険料の引き上げや控除削減による実質課税額の上がり具合を見ると、それこそ消費税の引き上げどころの問題ではありません。でも、ほとんどの人は給与明細を見てブツブツ文句を言うくらいで、結局は受け入れてしまっている。やっぱり天引きは最強の方法なのです。

【ご参考】
給与天引き貯蓄法は「本多式貯蓄法」などともいわれます。これは日本を代表する投資家だった本多静六博士が実践したことから、そう呼ばれるようにななったとか。本多博士の著書『私の財産告白』は名著中の名著です。



本多博士の資産経営・運用方法のすごいところは、単に貯蓄や投資だけでなく、お金と仕事と人生の関係への認識が一つの思想にまで高められていることです。だから多くの人が感心し、最近でもひふみ投信の藤野英人さんが本多博士を高く評価する文章を発表しています。

日本のすごい投資家に学ぶ「利他」の哲学(藤野英人)(NIKKEI STYLE)

関心のある人は、ぜひ一読してみてはいかがでしょうか。

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