2016年8月15日

個人型確定拠出年金は間違いなく普及する―問われるのは運営管理機関である金融機関の姿勢



確定拠出年金法が改正されたことで2017年1月から個人型確定拠出年金(個人型DC)の加入資格者が公務員や主婦などにも大幅に拡大されます。加入資格者の拡大で個人型DCがどれだけ普及するのか気になるところですが、フィデリティ投信のアンケート調査によると、2026年には個人型DC市場は約6兆円の規模となる可能性があるそうです(2017年は1兆3900億円)。

第3号被保険者の退職準備状況 - 個人型DC市場拡大の柱になれるか(フィデリティ退職・投資教育研究所)

個人的にも個人型DCは間違いなく普及・拡大すると思います。なぜなら、アンケート結果が示すように公的年金への不安から国民の老後に対する自助努力の意識が少しづつでも高まっているから。それはそれで良いことでしょう。さらに付け加えると、個人型DCに対する金融機関の認識が大きく変化している可能性もあるからです。だからこそ今後は、個人型DCの運営管理機関である金融機関の姿勢が問われると強調したい。

フィデリティ投信のアンケート調査によると、第3号被保険者の21%がDC加入の意向を持っており、とくに税制優遇のメリットが高く評価されていることも分かります。また、DC制度の認知度が高まることで、加入意向の比率はさらに上昇する可能性が示唆されました。このため2025年には個人型DCの市場規模は7.3兆円(高位)~6兆円(中位)~4.6兆円(低位)程度まで拡大すると予想しています。そのほかも、なかなか興味深い分析結果が多いアンケートとなっています。

やはり国民の間で少しづつですが老後準備に対する自助努力の必要性が認識されているといえるのですが、もうひとつ個人型DCの普及を後押ししそうなのが、運営管理機関でる金融機関の姿勢の変化ではないでしょうか。というのも従来、個人型DCがあまり普及しなかった背景には、金融機関が積極的に制度の存在をPRしてこなかったという経緯がありました。なぜかというと、端的にいって個人型DCは金融機関にとって大して儲かるビジネスではなかったからです。しかし現在、こうした金融機関の認識が大きく変わりつつあるように思います。つまり、個人型DCは金融機関にとって無視できない収益源となる可能性です。

現在、国内の貸し出し需要不足と世界的な低金利によって金融機関の収益性が激しく低下しています。そこで金融機関は投資信託の回転売買や外貨建て保険など高コストな金融商品の販売による手数料収入に活路を見出してきたわけですが、ここにきて高額な手数料をとる金融商品の販売に対する金融庁の指導が厳しくなってきました。従来のような安易な方法で手数料を稼ぐビジネスモデルを当局も許さなくなっているわけです。

こうなってくると、従来は大して美味しくなかった個人型DCが金融機関からすればにわかに魅力的に見えてきたのではないでしょうか。少額とはいえ毎月の運営管理手数料を確保できますし、加入者が投資信託で運用した場合は、やはり少額とはいえ信託報酬から販売会社分を取ることができます。しかもDCは一旦加入すれば60歳まで換金できませんから、極めて長期に渡って安定的に手数料を徴収できる商品なのです。

しかも法改正によって加入資格者は約2倍に拡大します。いまどき規模が一挙に2倍になるマーケットなどめったにありません。個人型DCは移換できますが、実際の手続きはけっこう面倒くさいので、やはりいったん加入した金融機関のプランから移換することはまれでしょう。つまり、先行者利益が極めて大きい商品でもあるのです。そう考えると金融機関としても鼻息が荒くなるのは当然です。恐らく今後、各金融機関とも個人型DCの勧誘を積極的に行うと思う。そうなると、やはり金融機関の営業力というのは大したものですから、間違いなく今よりも個人型DCは普及すると思うのです。

問われる運営管理機関の姿勢


実際に金融機関の意気込みが伝わってくるような動きも一部で出はじめました。そのひとつが確定拠出年金普及・推進協議会の設立と個人型DCの愛称募集キャンペーンなどでしょう。こうした動きをリードしているのは、確定拠出年金普及・推進協議会の事務局を担う運営管理機関連絡協議会のようです。やはり運営管理機関である金融機関が個人型DCを大いにビジネスチャンスととらえていることをうかがわせるインタビューがモーニングスターに掲載されています。

運営管理機関連絡協議会、分かりやすく使いやすい制度めざし「DC普及・推進協議会」をサポート(モーニングスター)

連絡協議会の会長会社は野村證券。さすが野村は金の匂いを嗅ぎつけるのが素早い。ただ、野村には珍しく個人型DCは良心的な商品を提供してきましたから、いちはやく市場としての可能性を認識していたともいえます。インタビューでも、なかなか立派なことを述べているので、少しは期待したくなります。ただ、やや注意すべき点も感じられました。それはインタビューの次のような発言です。
実務的な面では、加入にあたっての事務手続きの簡素化は、来年1月から加入対象者が大きく広がることを控えて、直面する課題といえます。国基連で簡素化に向けた検討を進めていると聞いていますが、実務を担当する立場として連絡協議会からもアイデアを出していきたいと思っています。
たとえば、新たに加入対象者となる公務員の方々は、職場ごとにまとめて加入手続きができるようにした方が便利だといわれますが、これを具体的にどうすればよいのかなど、日程が迫っていますので、対応策を固めていかなければならないと思います。
本来、個人型DCは企業型DCと異なり、あくまで個人が運営管理機関を選択できる点に利点がありました。なぜなら運営管理機関によっては手数料も商品ラインアップもまったく異なるからです。だからこそ個人型DCは、運営管理機関による健全な競争が成り立つ余地があるのです。ところが連絡協議会が提案するような職域ごとにまとめて加入させる方法は、そういった個人型DCの利点を殺すものです。例えば職域でまとめて個人型DCに加入する方法が採用され、そこで採用された運営管理機関の手数料が高く、商品ラインアップも貧弱だったらどうするつもりでしょうか。

じつは、こういう問題というのはすでに企業型DCではよくあることです。企業型DCは掛金を拠出する企業が運営管理機関を選択しますが、例えば取引関係にある銀行のプランが無自覚に採用され、加入者は高コストな商品しか選択できないという問題が少なからず存在します。例えば次のようなブログの記事は、いろいろと考えさせられました。

ソッコーで乗り換えですよ。(グラップラー簿記の資産形成)
手数料ウマーでしたとか開き直らんかいー(同)
短め後日談です。確定拠出年金。(同)

個人型DCに職域ごとに加入するといった方法が採用された場合、同じような問題が発生したらどうするのでしょうか。悪質な囲い込み戦略だと批判されても仕方がないでしょう。だから、インタビューで野村證券の人が言っていることは、いかにも野村的ですが、ようするに発想がセコイのです。

こういったことを考えると、個人型DCが普及することで問われるのは、運営管理機関である金融機関の姿勢だといえます。個人型DCにおいても本当に加入者の利益を第一に考えるフィデューシャリー・デューティーを遵守するのか、それとも単に手数料を稼ぐためのビジネスと捉えているのかという違いが明らかになるでしょう。

そして、すでに運営管理機関の中には明確な姿勢を打ち出している金融機関もあります。例えばSBI証券の確定拠出年金積立プランは残高50万円以上で運営管理手数料を無料にし、商品ラインアップも低コストなインデックスファンドをそろえています。9月から個人型DCに参入する楽天証券は、商品ラインアップはまだ発表されていませんが、やはり残高20万円以上で運営管理手数料を無料とします。

べつに手数料が無料だから偉いのではありません。加入者に対してコスト面で業界最高水準のサービスを提供しようとしている姿勢が偉いのです。手数料をきちんととって、それに見合うサービスを提供できるなら、それもひとつの付加価値です。問題は、やらずボッタクリになっていないかということです。

個人型DCというのは、ある意味で個人にとって虎の子の資金を運用する商品です。それだけに、通常の金融商品以上に金融機関は誠実に扱って欲しい。個人型DCが本当の意味で普及するためには、そういった運営管理機関としての金融機関の姿勢が問われることになるはずです。そして、メディアなどがそういった金融機関の姿勢を具体的に伝えていくことも重要だと思うのです。

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