2016年8月13日

『ジム・クレイマーの株式投資大作戦』―手堅く、そして楽しい株式投資の指南書



私は昔に刊行された投資ノウハウ本を読み直すのがけっこう好きです。投資ノウハウ本というのは、常に発行時の市場環境を前提に過去・現在を分析し、未来の見通しを語るのですが、実際に時間が経過した後に読み直すと、妥当だった点と的外れだった点が明らかになり、かえってその本の本質的価値が分かるからです。つまり、刊行から時を経ても、やっぱり納得できる内容の多い本というのは、良い本なのです。その意味で、個別株投資に関する本格的な指南書として現在でも楽しく読める1冊が『全米No.1投資指南役ジム・クレイマーの株式投資大作戦』です。ふざけたタイトルですが、これはじつに真面目な投資指南書であり、書かれている内容は手堅く、そして楽しい。

著者のジム・クレイマーは、投資の世界では超有名人で、ヘッジファンドのファンドマネジャーとして大成功した後は、CNBCの株式投資情報番組「MAD MONEY」の司会者として大人気です。ちなみに、番組の様子はこんな感じ。



とにかく愉快なオジサンなんですが、そこは敏腕ファンドマネージャーだけあって、本書の内容は一から十まで実践論です。例えば冒頭で投資に関する金科玉条として「株式は買い持ち(バイ・アンド・ホールド)すべし。それがいちばん儲かる方法だから」「トレーディング(短期売買)は間違い。長期保有が正解」「投機は悪の極み」を挙げ、いずれも「投資の旅の行く手をはばむ疫病神」とバッサリと切り捨てます。

とんでもないことを書いているようですが、これは株式投資において思考停止がもっともいけないことだと理解できます。だからクレイマーは、バイ・アンド・ホールドではなく「バイ・アンド・ホームワーク」という考え方を強調しています。つまり、株を買う場合は、その銘柄が買うに値するかを徹底的に調べる必要があるし、保有後も常に企業の状態をウオッチし続けることが必要だということ。長期投資も短期売買も、すべてホームワークの結果であって、結果と目的を混同するのはおかしいわけです。

では、ホームワークではどこに着目すべきか。これがじつに常識論。「まず健全な会社かどうか確認する」。つまり、負債が多く、財務内容が劣悪な会社は絶対に避けるべきだと強調しています。これは非常に重要なことで、いったん会社がおかしくなると株主の債権というのは最劣後になるのが企業金融の大原則だからです。その上で、売上高粗利益率に注目し、PERに基づいて期待成長率を業界内や市場平均と比較する。チャートは信用するなというのも納得です。

そして、よく分散された10銘柄でポートフォリオを作ることを推奨していますが、その選択基準は「身の周りにある企業」「石油株」「名の通った優良大企業」「金融関連銘柄」「『投機』銘柄」「『お勝手』銘柄」「大型優良循環銘柄」「ハイテク銘柄」「新興の流通チェーン銘柄」「第二のスターバックス」というのが面白くも、非常に納得のいくものです。著者は、ある程度の投機的銘柄をポートフォリオに組み込むことを推奨していますが、それはボロ株を買うことではありません。あくまで常識的で手堅いポートフォリオを構築した上で、積極的に“ホームラン”を狙うということです。

ただし、これは非常に米国的なポートフォリオでもあります。例えば石油株などは典型で、そりゃ、米国株に投資するなら、エクソンモービルやシェブロンを組み込まない手はないわけですし、ハイテク株が期待できるのもマイクロソフトやインテルを生み出した米国だからこそ。日本株で応用するには、ちょと工夫と応用が必要でしょう。

最終章では空売りの注意点までフォローするのですが、これが短いながらも最もシビアに書かれている部分です。つまり「空売りの損失は無限大」であり、だからこそオプションの「買い」で万が一のリスクに備えることの重要性を指摘しています。ここを読んでハッとしました。そうなんです。オプション取引というのは、基本的に無限大のリスクをヘッジするためにプレミアムを支払ってでも「買う」ものなのです。そのかわりオプションを「売る」人はプレミアムの代償として無限大の損失リスクを負う。日本では、あいかわらずオプションの「売り」を組み込んだ投資信託が個人に対して大々的に販売されているわけですが、そんな様子をクレイマーが知ったら、きっと「Crazy!」と言うような気がしました。

とにかく、微に入り細に入り具体的なのが本書の最大の特徴で、どこを読んでも退屈しません。そもそも株価とは何なのか。株価の変動はどのように起こるのかが、つねにプレイヤーの視点で書かれていて、しかもクレイマー個人の体験に引き付けて書かれている。だから、株式投資の指南書であると同時に、ウォール街の内幕が分かる優れたドキュメントとしての価値もあります。

なにより、本書には著者の個人投資家への愛情が感じられる点も非常に好感が持てます。クレイマーは、米国でも個人投資家はまともな投資教育を受けておらず、そのために時に金融機関の悪辣なハメ込みの犠牲者になっていることを危惧しています。だからこそ個人投資家の一般教養として本書が書かれている。そしてなにより、本書には個人投資家にとって株式投資は楽しいものでなければならないという著者の思いがあるような気がします。投資にはリスクがともなうのだから、苦しい思いをしてまでやる必要はないのです。でも、投資の教養が身に付けば株式投資は楽しいものです。少しでも株式投資を楽しんで続ける人が増えて欲しいというのも、恐らくクレイマーが本書を書いた理由でしょう。そういう点も含めて、非常に好もしい読後感のある本なのです。

【補足】
ちなみにクレイマーは本書で、自分で個別銘柄によるポートフォリオを組んで運用するためには、最低でも1銘柄につき週1時間以上のホームワークをやり通すことが最低条件だと強調しています。そんな時間がない人には、低コストなインデックスファンドを購入することを勧めています。このあたりもじつに真面目で親切なのです。

【ご参考】
本書の続編として『ジム・クレイマーの“ローリスク"株式必勝講座』もあります。こちらも首尾一貫していて、やっぱり楽しい1冊です。

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