2016年6月17日

三菱UFJ国際投信「eMAXIS」が受益者還元型信託報酬を導入―これはコスト構造の大改革だ



すでにいろいろな人のブログで紹介されていますが、三菱UFJ国際投信が低コストインデックスファンドシリーズ、eMAXISの新商品として「eMAXIS豪州債券インデックス」「eMAXIS先進国債券インデックス(為替ヘッジあり)」「eMAXIS新興国債券インデックス(為替ヘッジあり)」を7月1日に設定します。

『eMAXIS 豪州債券インデックス』『eMAXIS 先進国債券インデックス(為替ヘッジあり)』『eMAXIS 新興国債券インデックス(為替ヘッジあり)』募集・設定について(三菱UFJ国際投信)

eMAXISシリーズは低コストインデックスファンドシリーズとしては最大手の一角ですが、近年は様々な資産カテゴリーに投資するインデックスファンドを相次いで新規設定するニッチ戦略を進めていました。今回のラインアップ拡充もそのひとつといえるでしょう。ただ今回、それよりも注目すべきは受益者還元型信託報酬なるものが導入されたことです。

『eMAXIS シリーズ』における“受益者還元型”信託報酬導入に関するお知らせ(三菱UFJ国際投信)

これは単純に信託報酬の引き下げであるばかりではなく、日本で販売されているインデックスファンドのコスト構造を劇的に変更する大改革です。この意味は極めて大きい。実際の信託報酬引き下げ効果とは別に、今回の三菱UFJ国際投信の取り組みは大いに評価するべきだと思います。

今回導入が決まった受益者還元型信託報酬とは、ファンドの純資産残高が増加するに応じて信託報酬を自動的に引き下げる仕組みです。第1弾として、新たに設定された3ファンドに導入されていますが、各ファンドの純資産500億円以上1,000億円未満の部分について適用する信託報酬率を500億円未満対比で年0.02%引き下げ、1,000億円以上の部分については同0.04%引き下げられることになります(いずれも税抜)。

具体的に例で試算してみると、eMAXIS豪州債券インデックスは純資産残高500億円までは信託報酬年0.6%ですが、999億円なら年0.59%、2,000億円なら年0.57%となる。つまり、ファンドが成長すれば、自動的に信託報酬が引き下げられる仕組みとなるわけで、これが三菱UFJ国際投信の言う「サステイナブル(持続可能)なビジネスモデル」につながる信託報酬の仕組みだということになります。

こうした取り組みをどのように評価するべきでしょうか。現在のところeMAXISシリーズで純資産残高が500億円を超えたファンドはひとつもありません。また、引き下げられる信託報酬の絶対値は小さなものです。その意味では実質的な効果としては、いまだ“有名無実”な信託報酬引き下げの仕組みとさえ言えます。しかし、実質的な効果とは別に、受益者還元型信託報酬の導入がもたらす投資信託のコスト構造の大改革の意義を見逃してはいけない。

投資信託の信託報酬は、委託会社(運用会社)、受託会社(信託銀行)、販売会社(証券、銀行)で分け合う形になっています。eMAXISの場合、委託会社は三菱UFJ国際投信、受託会社は三菱UFJ信託銀行、販売会社は各証券・銀行です。じつは従来、この分配構造が“販売会社還元型”ともいうべき仕組みになっていました。目論見書を見ればわかりますが、純資産残高が成長すれば、販売会社の取り分が増加する仕組みです。これはeMAXISだけでなく、日本で販売されている投資信託で広く採用されている仕組みであり、いかに日本の投資信託が販売会社重視のコスト構造になっているかの証左でもあります。

これに対して新たに導入された受益者還元型信託報酬は、これまで販売会社に提供されていた優遇を受益者にも提供しようという試みです。これは画期的なことです。ファンドとして販売会社だけではなく、受益者の利益を優先するという意味があるからです。しかも、信託報酬引き下げの原資は、すべて委託会社と受託会社が取り分を減らすことで実現しています。それは、三菱UFJ国際投信と三菱UFJ信託銀行が、それこそMUFGグループとして受益者の利益を専らに考えるフィデューシャリー・デューティー(受託者責任)を果たそうとしている試みに思えました。

インデックスファンドは規模拡大によるコストメリットを発揮しやすい商品です。このため米国ではバンガードの商品に代表されるようにインデックスファンドやETFは純資産残高が大きくなれば、コストメリットを受益者に還元するために信託報酬の引き下げが随時行われています。ところが日本ではファンドが成長したことによるコストメリットを販売会社だけが享受するという異常な構造が当たり前のように続いてきました。

eMAXISの受益者還元型信託報酬の導入は、ようやく日本の大手運用会社でも米国のように受益者の利益を専らに考えることに正面から取り組もうといしている第一歩といえるでしょう。だから、たとえ実際の効果は小さくとも、取り組みそのものの価値は極めて大きいのです。(ちなみに独立系運用会社では、すでにレオス・キャピタルワークスが「ひふみプラス」で同様の信託報酬体系を採用しています。また、直販の「ひふみ投信」では長期保有者に対して信託報酬の一部を口数で還元する仕組みがあります。「ひふみ投信」「ひふみプラス」を高く評価する理由の一つです)。

受益者還元型信託報酬のもうひとつの優れた点は、ファンドを受益者とともに育てる意識につながることです。ファンドの純資産が増加することは委託会社、受託会社、販売会社ともに利益の拡大につながるのですが、信託報酬が自動的に引き下げられる仕組みを導入することで、受益者にとっても利益となります。つまり、委託会社、受託会社、販売会社、受益者が純資産残高拡大に向けてウィン・ウィンの関係になる。それはファンドとして理想の形です。だから、受益者還元型信託報酬というのは、ファンドのあるべき姿を追求するためにも必要不可欠なのです。

今回、三菱UFJ国際投信はまずeMAXISの新規設定3ファンドで受益者還元型信託報酬を導入しました。eMAXISの既存ファンドに関しては「導入の具体的な時期および内容につきましては、準準備が整い次第、お知らせいたします」としています。私はeMAXIS新興国株式インデックスやeMAXISバランス(8資産均等型)を持っていますので期待して待ちたいと思います。そして、今回の取り組みに関して受益者として大いに評価します。今後、こういった取り組みが三菱UFJ国際投信の他のファンドや、さらには他の運用会社にも広がっていけば、日本の投資信託はもっと素晴らしい金融商品になっていくのではと思わずにはいられません。
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