2016年5月3日

「日経ヴェリタス」の取材を受けました―マイナス金利対策は個人投資家の特権を活用しよう



先日、「日経ヴェリタス」の取材を受けました。5月1日付の1面記事「自分年金の育て方 マイナス金利で変わる常識」に私のコメントが掲載されています。とはいっても引用されたのは一言だけですし、仮名での登場(編集デスクの判断でブロガーネームなどは使えないそうです)なので、ほんとうに人知れず登場したという感じです。取材ではマイナス金利に対して個人投資家としてどのように対処するべきかについて個人的な考え方を話したのですが、記事では十分に紹介されていないので補足しておこうと思います。マイナス金利で、とくに債券への投資が非常に難しくなっているのですが、個人投資家には機関投資家にはない特権があります。その特権をフルに活用すべきというのが私の考えです。

資産運用でリスクを抑えるためには債券への投資は非常に重要な役割を担っています。債券はデフォルトしない限り、満期まで保有すれば元本が保証され、確実に金利収入が得られるからです。だから、どれだけ金利が低下しても、金利がプラスである限りは、債券投資には十分に投資としての意義があります。
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ところが日銀によるマイナス金利政策導入によって、日本国債などは満期まで保有すると元本割れになる可能性が出てきました。しかも債券は株式と異なり、満期償還があるので、国内債券ファンドなどは償還された資金で新しい債券に乗り換える必要があります。そのときに否応なくマイナス金利の債券に乗り換えざるを得なくなる。債券投資とは基本的に金利に対して投資するものですから、これは非常に困るのです。

日経ヴェリタスの記事では、マイナス金利によって従来の資産運用の常識が変わるとして特集を組んでいます。私は既に国内債券ファンドへの新規積立投資を減額しているのですが、そのことに注目して取材されたわけです。記事の中で私の「期待リターンがマイナスになる可能性のある資産に、新たな資金は投じにくい」というコメントが紹介されています。



【追記】
「日本経済新聞」電子版でも読むことができます。

自分年金の育て方 マイナス金利で変わる常識(「日本経済新聞」電子版)

では、マイナス金利対策としてどうすべきか。日経ヴェリタスの記事では高配当株式への投資や為替ヘッジをつけた上での外国株式への投資が登場しますが、リスクを抑えるという債券投資の本来の目的からすると、やや不十分でしょう(ただし、為替ヘッジを使った海外資産への投資は研究の余地ありだとは思います)。それよりも個人投資家には個人投資家の強みがあるのですから、それを活用した方法でマイナス金利対策をするべしということを取材でもお話しました。それは現金保有率を高めることと、個人向け国債変動10年を買うことです

なんだバカバカしいと思うかもしれませんが、じつは現金をいくらでも保有できるというのは個人投資家の特権です。機関投資家は手数料を取って運用を任されている以上、あまりに大きなキャッシュポジションをとることは受益者から批判されるし、存在の意義を問われてしまうので許されません。だから個人投資家は、自分の特権を生かして現金保有率を高めることで資産運用のリスクを抑えるというのが、マイナス金利時代の新常識でしょう。

それともうひとつ、個人投資家だけの特権的な金融商品が個人向け国債変動10年です。これは文字通り、個人投資家しか買うことのできない商品です。元本保証の上、金利も下限年率0.05%です。発行後1年経てば直近2回分の金利を放棄することでいつでも換金できますから流動性も十分。半年ごとに金利が見直されますので、金利上昇リスクに対する備えも万全です。

もちろん個人向け国債変動10年にも弱点はあります。それは適用金利が10年物国債金利をベースにした基準金利×0.66に抑えられてしまうこと。しかし、このデメリットはマイナス金利によってなくなってしまいました。個人向け国債は金利下限が年率0.05%に制限されているからです。

基本的に元本保証型金融商品の良し悪しというのは長期金利(国債10年物の利回り)との比較から相対的に判断すべき。そう考えると、現在の日本国債10年物の利回りがマイナス0.13%(2016年5月2日現在)ですから、個人向け国債変動10年の金利0.05%との間の利回りスプレッドは0.18ポイントもある。これはなかなかセクシーなスプレッドです。もし個人向け国債変動10年を機関投資家が買えるなら、飛びつくんじゃないでしょうか。

マイナス金利によって個人の資産運用も大変な運用難の時代です。ただ、債券への投資はリスクを抑えるためにあるという分散投資の大原則を踏まえるなら、マイナス金利時代の資産運用の新常識もおのずと見えてきます。高配当株式への投資や為替ヘッジによる海外資産への投資も悪いとは言いませんが、やはり本筋は現金と個人向け国債変動10年を持っておくということになるでしょう。極めて「常識」的な判断になると思いますが「新常識」という言葉で「常識」から外れてしまうことがいちばん怖いのです。

【注記1】
私は現在、国内債券インデックスファンドへの投資は減額していますが、だからといって必ず国内債券への投資がマイナスリターンになるとは思っていません。日銀が量的緩和を継続している限り、マイナス利回りの国債を高値で買い取ってくれるので国債のトータルリターンはプラスになる場合があるからです。だから、すでに保有している国内債券ファンドは売却しませんし、追加購入しているバランスファンドを通じて少しだけ国内債券ファンドにも追加投資していることになります。状況がどちらに転んでも大丈夫なように、あまり極端な投資行動はとらないというのが私の主義だからです。

【注記2】
「日経ヴェリタス」の取材では、今回紹介した内容を話しましたが、十分に紙面に反映されていません。しかし、取材していただいた記者さんを批判する意図はまったくないです。個人的に新聞編集の実情をよく知っているのですが、紙面スペースの制限や企画意図の問題から、記者が自由に原稿を書くことは現実的に難しいものです。そして、今回取材していただいた記者さんは、非常によく事情の分かった有能な方でした。私のような個人ブロガーにもきちんと目配せしてくれているというのはありがたいことです。ぜひ今後も個人ブロガーに注目して欲しいものです。なんといっても新聞など大手メディアの影響力は大きいですから、個人投資家の動きを報道することで、えてして孤立し、独りよがりな臆見に毒されやすい個人投資家を連帯させ、勇気づける手助けをして欲しいと思います。

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