2016年4月29日

野村ホールディングスの業績不振に垣間見る静かな地殻変動



野村證券を中核とする野村ホールディングスの業績が不振です。2016年3月期決算は大幅な減益となったばかりか、16年1~3月期だけを見るとついに赤字に転落です。

野村HD、海外戦略見直し 1~3月最終赤字192億円(「日本経済新聞」電子版)

海外での投資銀行業務の損失が膨らんだことが要因ですが、野村が海外で失敗するのはいまに始まったことではありません。それよりも国内リテール事業の収益低下が大きく、ついに海外での損失を補えなくなったと見ることもできそう。野村に限らず、対面型の大手証券会社は軒並み業績を悪化させているあたりに、なんとなく金融商品の販売をめぐる静かな地殻変動を感じてしまいます。

野村ホールディングスのIR情報から「決算・財務ハイライト・業務情報」を見ると、ホールセール部門で大きな損失を出しているわけですが、同時に営業部門の収益低下も大きい。アセット・マネジメント部門が比較的安定した収益を上げているのとは対照的です。営業部門の収益は株式の売買手数料と投資信託の販売手数料が中心ですが、そこが大きく落ち込んでいるというのは考えさせられます。

しかも、リテール部門の収益が低下しているのは野村グループだけではありません。対面型を中心に証券会社の業績は軒並み悪化しています。

証券18社が減益・赤字 1~3月、個人の株売買低迷(「日本経済新聞」電子版)

この記事は紙媒体の方には一覧表が付いているのですが、これがすさまじい。16年3月期決算では、対面型証券会社15社中、みずほ証券を除く14社が減益です。一方、ネット型証券会社は6社中、松井証券以外は増益となっています。この傾向は16年1~3月期だけで見るとさらに加速していて、対面型は全社が減益もしくは赤字転落であり、ネット型はマネックス証券、松井証券、カブドットコム証券以外は増益を維持している。とくにSBI証券と楽天証券の健闘が目立ちます。

対面型証券会社の業績悪化は、いずれも国内での株式売買手数料や投資信託の販売手数料による収入が減少しているからでしょう。日経新聞でも次のように要因を分析しています。
新興国経済の減速や資源安で株式相場が不安定になり、個人投資家の株売買が低迷した。個人向け投資信託の販売も鈍化し「貯蓄から投資へ」の流れにブレーキがかかった。
しかし、個人投資家の株式売買が低迷したり投資信託の販売が鈍化するという条件は対面型もネット型も同じはず。にもかかわらず両者の間で業績推移に差が生じるのはなぜでしょうか。両者の大きな違いは、対面型証券会社のほとんどは販売手数料を取って投資信託を販売しているのに対して、ネット型証券会社はノーロード(手数料なし)の比率が高いことです。つまり、ネット型証券会社はもともと投資信託の販売手数料への依存度が低い。

非常にうがった見方ですが、投資信託の販売手数料から収益を得るというビジネスモデルが曲がり角にきているのかもしれません。すでに一定の投資リテラシーを持つ個人投資家は、販売手数料が必要な投資信託など買わなくなっています。そして相場が低迷すると、購入手数料を素直に払ってくれるようなあまり投資リテラシーの高くない個人投資家は購入を手控えたり解約したりする傾向があります。一方、ノーロード投信を買っている投資リテラシーの高い個人投資家は積立投資などで商品購入を継続します。そうするとノーロード投信の方が資産残高が積み上がり、結果的に信託報酬に占める販売会社の取り分を証券会社は安定的に確保できます。

あくまで素人の想像の域を出ませんが、野村ホールディングスに代表される対面型証券会社の業績不振とネット型証券会社の健闘には、そういった構図があるような気がします。もちろん、絶対的な規模では現在でも対面型証券会社が圧倒的な存在です。しかし、静かな地殻変動が起こっているような印象を感じてしまうのです。

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