2016年4月4日

新社会人は投資を始めるべきか否か



4月に入って、いよいよ新年度です。この時期になるとビジネス街にはリクルートスーツ姿の新社会人を多く見かけ、その初々しさはなかなか好もしいものです。ところで投資クラスター的なネタとして、新社会人は投資を始めるべきか否かという議論がよくあります。日経新聞電子版にも次のような記事が出ていました。

初任給で投資デビュー 時間が味方、資産を育てる(「日本経済新聞」電子版)

いろいろと網羅的に紹介されていて参考になります(ただし、野村證券など大手証券会社の「るいとう」はやめたほうがいいです。手数料がバカ高いから)。では実際に新社会人は投資を始めるべきか否か。あるいは投資するとした、どんな優先順位となるのでしょうか。

「新社会人は投資を始めるべきか否か」という議論は以前からあって、若いうちから投資をスタートさせた方が有利だという人もいれば、まずは貯蓄体質を作って生活基盤を整えるのが先決という意見もあります。あるいは、若いうちは自己投資(勉強だけでなく遊びも含めて)にお金をかけるべきという人も多いです。はたしてどれが正解なんでしょうか。私は全部正解だと思っています。ようするに全部やってしまえばいいじゃないですか。貯蓄も一種の投資ですし、勉強や遊びも文字通り自己投資です。

ただし、物事には優先順位があって、やはり新社会人は、まず与えられた仕事に全力投球するのが大前提。資産形成の最大のエンジンは自分の本業しかないわけですから、投資について考えるよりも、まずは仕事をこなせるようになるのが先決です。それができないとどうしようもありません。本業がダメだから投資で挽回するなどといった馬鹿げたことを言う人もいるのですが、そういう考え方はおそらく生活破綻の入り口です。

こうした大前提を踏まえたうえで、資産形成の順序としてお薦めなのは、「貯蓄>自己投資>投資」の順でお金を使うことです。まずは貯蓄がないと、自己投資も安心してできません。習い事などだけでなく本を買うにもお金がかかるのです。私は20代の頃はフリーターで、いまよりも貧乏だったので、本当に本1冊買うのにも迷いながら買った経験があります。そんな状態では、落ち着いて勉強もできません。そして、株式や投資信託に投資するためには、やはり種銭が必要です。

だから、まずは記事でも紹介されている財形貯蓄など給与天引き形式で貯蓄できる制度を利用するのがおススメ。そうやってまず「収入-貯金=生活費」というスタイルを作ってしまうととても楽です。貯金を差し引いた分のお金は、それこそ気前よく使っちゃえばいいんです。そして目の前の仕事に集中する。それこそが自己投資です。それで何年間か経つと、知らないうちにそこそこの貯金ができていますから、やはり給料天引き貯金は偉大な方法なのです。

ある程度、生活基盤が落ち着いてきたら、いよいよ投資について考えればいいのですが、その前にお金について世の中の基本的な仕組みを理解することも欠かせません。とくに日本では学校教育でこういった分野がまったく看過されているので、社会人になっても恐ろしく無知なケースが多い。そこで何冊か本を読んで自習するのがいいです。お薦めは次の2冊です。



投資はいつでも始められるから、まずは生活基盤を安定させて種銭と生活防衛資金を作るのが大事。ただし、投資の勉強は始めた方がいいし、しなければいけない人もいます。それは企業型確定拠出年金を導入している企業に入社した人です。こういう人は、新入社員の段階からしっかりと国際分散投資について勉強しないといけない。導入企業で投資教育が行われますが、たぶん時間的にも十分とは言えないので、やはり何冊か本を読んで自習しましょう。企業型確定拠出年金については、次の2冊がお薦めです。



投資をスタートさせるには、まずは基本的なお金に関する知識や制度を確認してからの方が間違った道に進んでしまうリスクが抑えられます。そこができていれば、あとは、まずは少額で投資を実行してみる。投資信託を1万円だけ買うもよし、それこそ飲み代1回分ぐらいを積立投資に回すもよし、思いきって個別株を1単位株だけ買って保有してみるのもいいです。企業型確定拠出年金に加入している人は、まずはそれだけでも十分かもしれません。そこでリスク資産の値動きを実際に体験してみる。そうする、だんだんと自分のリスク許容度というものも分かってきます。その段階で、初めて投資に本格的に取り組めばいい。たぶん、そのための勉強の方法も自然と分かってくるでしょう。

若いうちから少額でもいいので投資する効用は、なにも儲けることだけではありません。とくに国際分散投資をしていると、自然と世界経済の動向に関心が湧いてくるし、勉強もするようになります。単純な話、新聞や書籍の読み方、ニュースの理解なども変わってきます。これがビジネスマンとしての洗練度につながるのです(洗練度が上がったからといって給料が上がるかどうかは分かりませんが)。そのリターンは、もしかしたら投資自体のリターンよりも大きいかもしれません。面白いことに、投資を通じて一種の自己投資ができるようになるのです。

だから「新社会人は投資を始めるべきか否か」という問いに対して「しっかりと準備したうえで、ちょっとだけ投資してみるのも面白いよ」と答える。ただし、あくまで「少額」「ちょっとだけ」です。それなら損してもたかがしれています。損しても「投資って面白い」と思えたら、はじめて本格的に投資をスタートさせればいいのではないでしょうか。

【追記】
相互リンクいただいている安房さんから「ITTINさんの本も紹介しろ」とリクエストがあったので、追加で紹介します。こちらは入門編のように見えて、意外と上級編です。これだけのことを実践できる人は、お金についてあるていど勉強をした人でしょう。でも、実戦問題を解くためのケーススタディーとして、非常に勉強になる本です。

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