2016年3月19日

NISA恒久化は社会保障政策として絶対に必要だ



自民党金融調査会の根本匠会長がこのほどロイターのインタビューに答え、NISA(少額投資非課税制度)の対象期間恒久化も含めて検討すると発言しました。

インタビュー:NISA、恒久化含め検討必要=自民・金融調査会長(ロイター)

現行のNISA制度は、非課税期間が5年間と限られ、本当の意味での長期運用には適さない制度となっていました。だから、恒久化というのは長期保有を志向する個人投資家にとっても、ぜひ実現して欲しい政策です。さらに言うと、NISA恒久化は単に投資活動の活発化を通じた経済政策ではありません。ある意味で、社会保障政策として絶対に必要なことです。

現行のNISA制度は、非課税期間が5年間しかなく、その後は再びNISA口座にロールオーバーするか、通常の課税口座に払い出しされてしまいます。この際に取得価格が上書きされてしまうため、保有資産が値下がりしていると、かえって将来の売却時の課税額が大きくなる危険性があるというデメリットを抱えています。これでは、どこかで利益確定する必要があり、バイ&ホールド戦略による資産運用には不向きな制度となっていました。このため個人投資家はもちろん、銀行・証券業界からも恒久化への要望が寄せられていたわけでですが、ようやく政府与党の関係者から具体的な話が出てきたことは評価できます。

ただ、政府にはもう少し踏み込んで、なぜNISA恒久化が必要なのかということを考えて欲しいとも思います。インタビューの中で根本議員は、NISA恒久化の必要性の理由として次のように述べています。
根本会長は、家計の資産形成や日本経済への成長資金の供給拡大の観点から「恒久化を含めて検討する必要がある」と述べた。
これは一面では正しいですが、片手落ちでもあります。NISA恒久化は、単に経済の成長戦略に資するから必要なのではありません。ある意味で国民の老後に向けた資産形成の自助努力を支援する社会保障政策として必要なのです。

もともとNISAは、英国の個人貯蓄口座(ISA)をモデルとして構想されました。英国は日本以上に階級社会ですから、一般庶民の低い貯蓄率と老後の経済的不安定が社会問題となっていたことから、国を挙げて一般庶民の資産形成を支援するために制度が設けられた。つまり、社会保障制度の一環として考えられていることを忘れてはいけません。なお、英国ISA制度については、日本証券業協会が報告書を出しています。

「英国の ISA(Individual Savings Account)の実施状況等について~英国の ISA の実態調査報告~」(日本証券業協会)

非課税の投資口座が、社会保障政策の一環であるということは英国だけでなく、米国ではもっと包括的な形で制度整備がされています。米国は1974年にERISA法が制定され、企業年金制度や福利厚生制度の設計や運営を連邦法に基づいて統一的に規定するようになります。このときに企業年金などの恩恵に浴せない勤労者のために設けられたのが個人退職勘定(IRA)です。IRAは拠出時に拠出金額が所得控除され、運用中も非課税です。そして払い出し時に課税される仕組みです。1997年には、新たにロスIRAも創設されます(制度に係る法案提出者であるウイリアム・ロス上院議員にちなんで「ロスIRA」と呼ばれています)。これは拠出時に所得控除できないかわりに、払い出し時に非課税となる仕組みです。いずれにしても退職後に向けた口座ですから、運用期間は恒久化されています。IRAやロスIRAについては、みずほ総合研究所が簡便な解説レポートを出しています。

米国の個人退職勘定(IRA)の概要とわが国への示唆(みずほ総合研究所)

英国にしても米国にしても、少額の投資非課税口座制度というのは、基本的に社会保障政策の一環なのです。なぜなら、社会保障制度というのは、「自助」「共助」「公助」のバランスで成り立つものだから。国が十分な公助を用意できないなら、最低でも「自助」を支援する制度を用意するというのは、当たり前の発想といえるでしょう。こうしたことを考えると、なぜ日本でもNISAを恒久化する必要があるのかわかります。まさに国民の老後に向けた自助努力としての資産形成を支援するために必要なのです。

日本では、こういう制度の背景となる思想があいまいだからNISAに対しても不信感が出てくる。しょせんは「投資=ギャンブル」のための制度だとバカにする人もいるわけですが、現在のように中途半端な制度では、そういわれても仕方がない。だからこそ、NISAも恒久化されて初めて社会保障制度の一環だと正しく主張できるのです(ちなみに、現在のNISAは株式と投資信託しか保有できませんが、ぜひとも公社債も対象に加えるべき。すべての国民が高いリスク許容度を持っているわけではないのだから)。

さらに、現在の日本政府には、国民の資産形成を積極的に支援する責任もあります。それは、マイナス金利を導入したから。マイナス金利とは、つきつめると国民から利子収入を没収する行為です。マイナス金利によって、もやは通常の貯蓄だけでは十分な資産形成が難しくなりました。ならば、せめて非課税投資口座の恒久化で、国民の自助努力を積極的に支援するのは国家として最低限の努めです。その意味でも、NISA恒久化は絶対に必要なのです。そして可能ならば、英国のISAだけでなく米国のIRAやロスIRAに近い形へと制度改革して欲しいと思います。
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