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2016年3月8日
内藤忍の罪とは何か―ワインファンド、ヴァンネットが破産
昨年12月に金融商品取引法違反で登録取り消しという重い行政処分を受けていたワインファンド、ヴァンネットが3月7日に東京地裁に破産申請し、同日手続き開始決定を受けました。
国内唯一のワイン投資ファンド組成・運営株式会社ヴァンネット破産手続き開始決定受ける負債40億円(帝国データバンク)
すでに行政処分を受けていた段階で典型的なポンジスキームの疑いが強かったですから、遅かれ早かれこうなると予想していたのですが、さすがに「負債は債権者約530名以上で、約40億円を超える見込み」というのには驚きました。債権者1人当たり平均で1000万円近い損失を被るわけですから、決して小さな事件ではありません。また、破産の原因が「ワインの買い付け・売却に関して虚偽の報告をしていた」というのですから、完全に詐欺です。悪質性も極めて高い。そうなると、一時は盛んにこのファンドを推奨してきた内藤忍氏は、いったいどうするつもりでしょうか。本人は広告塔に利用されたと思っているのかもしれませんし、実際にそうだった可能性もあります。だから内藤氏自身も被害者だと思っているのかもしれません。しかし、少なくとも内藤氏は“プロ”の投資評論家でした。法的責任以上に道義的責任は免れないのでは。そこにこそ、内藤忍の罪があるように思います。
私はかつて内藤氏の著書を熱心に読んだ一人でした。ただ、あるときから妙な実物投資を推奨するようになり、だんだんと彼の主張に違和感を持つようになったものです。それが決定的になったのは、やはり「ワイン投資」などという、およそ尋常ではない投資手法を推奨し始めたときです。おまけにワイン投資を推奨する著書まで出したときには、私の内藤氏に対する違和感は、拒否感にさえ変わりました。
どう考えてもワイン投資などは普通ではないからです。べつに実物投資が悪いとは言いませんが、投資対象の流動性リスクやファンドの信用リスクをまったく無視しているよな言説が多く、じつに危なっかしい印象を持っていました。だから内藤氏が推奨していたヴァンネットが行政処分を受けた際には、「やっぱり」と思うと同時に、こういったおかしな投資に価値を見出してしまう個人投資家の心性自体にも、ある種の自戒を込めて、批判的なことを書いたりもしました。
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その後、内藤氏からなんらかの説明や釈明があるのではないかと、古い読者の一人として期待もしていたのですが、とくに何を語るでもなく、沈黙を続けています。それどころか、あいかわらず珍妙な実物投資理論を提唱し続けていて、やっぱりおかしいとの思いを強くしたものです。
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これなどは「いくらなんでもムチャやで」という印象しかありません。少しでも不動産投資の実情を知っている人なら、こんな机上の空論で投資を実践したら即死することぐらすぐに分かります。だいたい、借入期間中の収支が一定などという前提がありえないし、そんなありえない前提に基づくキャッシュフロー戦略など一瞬で崩壊します。
そうしたなか、ついにヴァンネットの破産が明らかになりました。ことここに至って、私は内藤氏の罪は極めて大きいと思う。法的な罪だけでなく、投資評論家としてこれまで投資に関する啓蒙活動を行ってきた立場(現在も内藤氏は一般社団法人海外資産運用教育協会代表理事の肩書を名乗っています)から、道義的な罪が極めて大きいのです。
日本ではまだ「投資」という行為に対して十分な社会的承認が得られているとは言えない状況です。いまだに「投資=ギャンブル」とか、「投資は危険」「投資は金持ちがすること」「投資のような不労所得はイカン」といった観念が強いのです。だから、多くの個人投資家は、自分が投資していることを実生活で声高に主張しませんし、どこか肩身の狭い思いをしているのが実情です。
そうしたなか、一部の良心的なプロ投資家や投資評論家が、「投資は普通の生活者でもできる」「正しく投資すれば怖くない」ということを、少しずつですが世の中に広めていった経緯があります。内藤氏も、そんな良心的な発言者の一人でした。私自身も、その主張に大いに勇気づけられたものです。
ところが今回、内藤氏はそういった真面目な個人投資家の期待を裏切った。実際にワインファンドの破綻が報じられてら、世間には「やっぱり投資は胡散臭い」「ファンドと名の付くものなんかには近寄らない方がいい」といった意見が多く出るようになりました。再び個人投資家は肩身の狭い思いをしなければならなくなった。日本で投資というものが生活者のごく普通の嗜みとして普及することの足を引っ張ったのです。それこそが内藤忍の罪です。
今回の事件を受けて私は、内藤氏の古い読者の一人として、寂しい気持ちでいっぱいです。このまま内藤氏が今回の問題に対して無視を続けるというのは、あまりに寂しすぎる。いまからでも遅くはないから、ことの経緯を説明するべきですし、して欲しいと切に願います。少なくともそれが投資評論家として発言してきたこれまでの活動に対する最低限の責任だと思うのです。内藤氏には、もうこれ以上、古くからの読者をがっかりさせないで欲しいと思わずにはいられません。