「NIKKEI STYLE」に日本経済新聞編集委員である田村正之さんの面白い記事が載っていました。
積極運用でも低コスト 投信「第3勢力」の実力(NIKKEI STYLE)
日本では従来、低コストなインデックスファンドと高コストなアクティブファンドしか選択肢がなかったのですが、ここにきて「低コストなアクティブファンド」という「第3勢力」が登場したことで、個人投資家にとって有益な選択肢が増えてきました。私自身も記事で紹介されているピクテ投信投資顧問の「iTrust世界株式」に“そそられた”ひとりです。アクティブファンドはインデックスファンドにリターンでなかなか勝てないのですが、その最大の要因は、コストの高さによる自滅でした。だから、アクティブファンドこそ低コストが大事なのです。そういったまともな発想の商品が増えてることは個人投資家としてありがたいことです。これまでインデックス投資とアクティブ投資のどちらに優位性があるのかという“神学論争”があったわけですが、低コストなアクティブファンドが登場したことで、ようやく神学論争自体の無意味さも明らかになるのではないでしょうか。
アクティブファンドは、インデックスファンドにリターンでなかなか勝てないとされており、これは過去の実績でもほぼ実証されています。しかし、田村さんの記事にもある通り、その要因のほとんどはアクティブファンドのコストの高さによる自滅です。アクティブファンドでも十分にコストが低ければ、意外とインデックスファンドに対して戦えるとして、次のように指摘しています。
しかし低コストアクティブに限ると勝率が高くなり、10年では62%がインデックス型に勝っていた。米国の類似の調査では、10年で見た勝率は低コスト投信が29.7%、高コスト投信が9.9%。全体的に日本より低いものの、やはり低コスト投信の優位性が相対的には目立つ。つまりアクティブ型がインデックス型に負けやすい大きな理由は、運用の腕というよりもコストの重さにあることが改めて認識できる。そこで記事で登場するバンガードのアクティブファンドがすごい。アジアパシフィック運用部門統括責任者ロドニー・コメジス氏のインタビューでの発言は、なかなか衝撃的でした。
投信評価会社リッパー社によると、15年末現在で同種のアクティブ型投信の平均に比べ、バンガードは株式投信では過去5年では91%、過去10年では97%が勝っている。債券投信では過去5年で86%、過去10年で95%の勝率だ。多少は話を盛っているとしても(例えばベンチマークに対する勝率ではないことに注意)、スゴイ成績です。ただ、成績の良さよりも驚いたのが、そのコストの安さ。「バンガードのアクティブ型株式投信の総経費率(信託報酬より幅広く経費全体を合算した数値)は年0.27%。同種のアクティブ型投信の平均である1.04%を大きく下回っている」とのこと。年0.27%ですよ! そりゃ、勝てるわけだ。そして、アクティブ投資について理解する上で、極めて大切なことを指摘しています。
アクティブ型投信のアルファ(超過収益)を稼ぐ力はそれほど強いものではなく、低コストでないと、アルファが食われてしまう。投資において市場全体の収益であるベータのほかに、運用者の投資行為に基づくアルファが存在するのかどうかは議論の分かれるところですが、個人的にはアルファは存在すると感じています。しかし、そのアルファは、私たちが想像する以上に小さい。だからこそ、アルファを取りに行くアクティブ投資こそ、徹底的に低コストでないと成り立たないのです。
こういう当たり前の認識が日本でも広まり、低コストなアクティブファンドが普及すれば、本当に面白いと思う。そうなれば、“インデックス投資か、アクティブ投資か”といった無意味な神学論争も収まるかもしれません。これまで、低コストなインデックスファンドと高コストなアクティブファンドを比較しているのですから、アルファがどうのベータがどうのという前にコスト差が論外なレベルにあったわけです。そんなもん、高コストなアクティブファンドが勝てるはずがありません。
そもそもインデックス投資とアクティブ投資の優位性を比較すること自体が本来は無意味なのです。インデックス投資とはアルファを放棄する代わりにベータを確実に確保することを目的とした投資手法です。一方、アクティブ投資はアルファがマイナスになってリターンがベータを下回るリスクを負いながらもプラスのアルファを取りに行く投資手法です。そもそも両者は目的が根本的に違う。目的の異なる手法の優位性を比較することは成り立たない。
だから、「インデックス投資とアクティブ投資のどちらが優れているのか」という問いは、正確には「インデックス投資とアクティブ投資では、どちらの方がそれぞれ優れた商品が多いのか」という問題でした。それぞれ商品カテゴリー内部の品質の問題なのです。世の中には「良いインデックスファンド」と「悪いインデックスファンド」があり、同じように「良いアクティブファンド」と「悪いアクティブファンド」があるだけです。そして「アクティブファンドは不利」と言われるのは、「良いアクティブファンドが少ない」という意味でした。
もちろんファンド選択の難易度という側面もあります。インデックスファンドの良し悪しは、ほぼコストの多寡で判断できますが、アクティブファンドの良し悪しを判断する基準は、コストの多寡のほか過去の実績や運用哲学などもっと複雑になり、インデックスファンドに比べてファンド選択の難易度が極めて高くなります。だから「アクティブファンドよりもインデックスファンドの方が優れている」というのは、「アクティブファンドよりもインデックスファンドの方が良い商品を選ぶのが簡単だ」という意味だったわけです。
だからこそ、低コストなアクティブファンドが増えることでインデックスをアウトパフォームするアクティブファンドが多く登場して欲しいものです。そうなれば、そもそもインデックス投資とアクティブ投資は目的が異なるということがもっと明確になるでしょうし、アルファを放棄してでもベータを確実に確保するというインデックス投資の意義もかえって明瞭になるでしょう。なぜなら、良いアクティブファンドが増えれば、ダメなアクティブファンドを買ってしまったときのダメージが一段と大きくなります。同時に、インデックス投資では、しょせんはベータしか確保できないということも鮮明になるからです。
つまり、アルファが存在すること認めてこそ、そのためのリスクについても正しく認識できるわけです。そこで初めてインデックス投資を選択するのはなぜかということをインデックス投資家自身が自問自答することができます。安直に「アクティブ投資はダメだ」と言えなくなる。「アルファを捨ててベータを確実に確保する」ことと「アルファを狙うためにベータを損なうリスクを負う」ことが、自分にとってどういう意味を持つのかということが問われます。それは、本質的に「自分にとって投資とは何か」を問われることです。そうなってこそ、インデックス投資に対する本質的な理解に至るのではないでしょうか。それは“インデックス投資か、アクティブ投資か”といった神学論争よりも、よほど意味のあることだと思います。