ブルームバーグに気になる記事が載っていました。シティグループやモルガン・スタンレー、HSBCなど世界の大手金融機関が極少数の大口投資家への優遇サービスを強める一方、機関投資家も含めて小口投資家に対しては対等なサービスを提供しなくなっているそうです。
ウォール街がかしずく0.01%、シティグループの秘密の顧客リスト拝見(ブルームバーグ)
こんな話を聞くと、極めて弱小な資金しか持たない個人投資家などは、金融機関からすればゴミ以下の存在としか見られていないということがよくわかります。弱小投資家に金融機関はまともな情報提供もしなくなっているということを知ると、個人投資家がアクティブなトレーディングで大口のヘッジファンドなどに立ち向かうのがバカバカしくなります。
シティグループの場合、特別なサービスを提供するのは顧客全体のわずか0.01%の大口有力投資家だけだとか。彼らに対して「最有望トレードのアイデア提供やアナリストらとの数時間の電話会議、幹部と親密に話せる夜の付き合い、特別仕様のトレーディングモデル」を提供しているそうです。その結果、「少数の特権階級とその他大勢との格差が、ウォール街でも急速に広がっている」とのことです。
記事には書かれていませんが、例えば手数料の割引きなども行われているであろうことは、ほぼ公然の秘密です。しかも、機関投資家でさえ金融機関の差別的な扱いに困っているという指摘はちょっと衝撃的です。
サークル・スクエアド・オルタナティブ・インベストメンツで約15億ドル(約1700億円)の運用に携わるジェフ・シカ氏は、ウォール街の銀行から「調査リポートが自由に手に入らないということを発見した時は愕然(がくぜん)とする」と話す。約15億ドル(約1700億円)もの資金を運用している機関投資家ですら、世界の大手銀行からすれば弱小投資家であり、調査レポートすら提供する価値がないと判断されていることに私も「愕然とする」。だとすると、個人投資家などはゴミ以下の扱いになるであろうことは容易に推察できます。
機関投資家ですらこんな有様ですから、ましてや個人投資家などは金融機関からすればゴミ以下の存在に違いありません。そして、米国ほど露骨ではないでしょうが、たぶん日本でも似たような現象が起こっているのでしょう。そう考えると、弱小な資金しか持たない個人投資家が、短期売買などアクティブなトレーディングで相場に勝とうとする行為がバカバカしくなる。ただでさえ資金力が貧弱というハンディキャップを負っている上に、情報(ちょっとインサイダー情報くさいぞ!)提供などサービス面でも差別的な待遇を受けているわけですから、そうそう簡単には勝てるはずもないからです。
もちろん、優遇サービスを受けているからといって、大口投資家が必ず勝てるほど相場は甘くないのも事実でしょう。実際に日本でも数年前に、ある大手アパレルのオーナー経営者が“赤い銀行”から多くの優遇サービスを受けてデリバティブ取引をしていましたが、トレード失敗で会社自体も破綻してしまったことは、その筋では有名な話です。
それでも、アクティブな投資の世界では個人投資家と機関投資家、さらに小口機関投資家と大口機関投資家は、まったく平等な条件では競争できないというのは厳然たる事実です。そして、その流れが一段と加速し、投資家に対する金融機関の扱いの差も一段と広がっているということです。
こういう話を聞くから、私は短期売買などアクティブなトレーディングをやる気がまったく失せるのです。なにが悲しくて不利な条件で競争しなければならんの? ごく一部の天才や強運の持ち主なら勝てるでしょうが、普通の人はまず無理です。「市場の歪みが」などと言っている人もいますが、しょせんは能書きにすぎません。
結局、こんな馬鹿げた競争からはさっさと降りて、バイ&ホールド戦略など昔ながらの地味な投資に徹するのが個人投資家として本筋です。そして、たっぷりと優遇サービスを受けた大口機関投資家の運用成果の平均を、インデックス投資でしっかりといただいてしまえばいい。そう考えると、ウォール街の特権階級といえどもセコセコと働いているのに対して、本物の個人投資家はゆったりと高みの見物をしているだけでリターンをいただける。どっちが本当の特権階級か分からなくなります。そもそも、真の特権階級とは、特別な優遇サービスすらも必要としない人たちだからです。