2016年3月1日

労働者の権利を愚弄するメガバンク労組のベア要求見送り



最近、日本の銀行というのは、本当にどうしようもないと思うことが多くなりました。日銀が当座預金の一部にマイナス金利を導入したとたん、いきなり預金金利を引き下げるなど情けない動きが続いています。信用供与という銀行本来のビジネスをおざなりにして、安易に国債運用と日銀当座預金からの金利収入(これは一種の補助金でした)に依存してきた矛盾がマイナス金利によって顕在化したのですから、本来なら自らの不徳の致すところに思いをはせ、貸出先の開拓などに汗をかくべきなのです。ところが、収益性が低下したからとって、すぐさまそれを預金者に転嫁するなどは、情けないというほかありません。そんななか、じつに不愉快なニュースが入ってきました。メガバンクの労働組合が今年の春闘でベースアップ要求を見送るそうです。

ベア要求、見送り広がる=マイナス金利など響く-金融界(時事通信ドットコム)

もともと銀行の労組というのは典型的な御用組合が多いのですが、これなどはまさに労働者の権利を愚弄する行為です。メガバンクという日本を代表する大企業の労組が、経営陣の意向を忖度した春闘方針を打ち出すことで、他産業の春闘にどれほど悪影響を及ぼすかなどはまるで考えない態度は、厳しく批判するべきです。

私は従業員50人以下の零細企業に勤務していますが、昨年まで労働組合の執行委員長をしていました。そして今年も執行委員として春闘に臨んでいます。最近では労働運動といっても馬鹿にする人が多いのですが、私のような零細企業の勤めるものにとっては、とても重要なことだとブログでも何度か書いてきました。労働者も投資活動によって資本主義が生み出す剰余価値を取り戻すのは大切なことですが、まずは労働運動によって労働分配率を高める努力が前提としてあるのです。
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実際に中小零細企業に勤めていると、黙っていては給料はほとんど増えません。すぐに「業績が悪いから」とか「中小企業は、まだ景気回復の恩恵にあずかっていない」といった言い訳で、労働分配率を低く抑えられてしまう。でも、これは当たり前の話です。そもそも営利団体たる企業は収益の最大化が目的ですから、労働分配率を高めるインセンティブが皆無。逆に分配率を引き下げるインセンティブが働いています。これは良い悪いの問題ではなく、組織の目的がそうなっているということ。だからこそ、労働者は堂々と賃金引き上げの要求を出して、やはり堂々と交渉するべきです。実際に世の中の真面目な労組は、大変な苦労をしながら賃上げ交渉をしているのです。

ところが今回、メガバンクの労組はそういった労働者の権利をあっさりと放棄してしまった。たしかにシャープや東芝のように企業が存続の危機にあるときは、ある程度は労使協調して企業再建に取り組まなければなりません。そういう経験は、中小企業の労組ではよくあることです。しかし、マイナス金利が導入されたからとってメガバンクが経営危機に陥るほど追い込まれているわけではないはず。なのにベア要求を見送るというのは、結局のところ労組が経営陣の意向を忖度しているにすぎない。労組が、組合員ではなく経営陣の代弁者になっているわけですから、情けない話です。

さらに有害なのは、日本を代表する大企業であるメガバンクがベア要求を見送ることで他産業の春闘に悪影響を与えることが必至だということです。恐らく多くの企業(とくに中小企業)の春闘で、経営陣は「メガバンクですらベア見送りなのだから、ウチのような小さな会社が賃上げなんかできるわけがない」と言うことでしょう。賃上げの停滞が他産業にまで波及すれば、景気に大きな悪影響を及ぼす可能性すらあります。なによりメガバンク労組の幹部には、労働者としての意識と連帯のための想像力が欠如しているといわざるを得ません。だから御用組合だと批判されるのです。

メガバンク労組の幹部は、労働組合がだれのために存在しているのかという根本的な認識ができていない。そういう人が、やがて組合を卒業して銀行の幹部に登用されていくのですから、今度は銀行がだれのために存在しているのかという根本的なことが分からなくなるのでしょう。「組合は、鏡に映った経営者の姿」と言われます。ダメな組合がある会社は、同じくらいダメな経営陣がいるものです。今回のメガバンク労組の行動は、まさに日本の銀行が労使ともに情けない状態になっていることを象徴しているように思えてなりません。

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