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2016年2月14日
マイナス金利時代の無リスク資産とは―“リスク”の厳密な意味を理解しよう
日銀が日銀当座預金の一部にマイナス金利を導入すると発表してい以来、ちょっとした混乱が起こっています。たしかにMMFが相次いで新規販売停止や繰上償還されたり、預金金利が引き下げられるなど目に見える動きもあるわけです。ただ注意して欲しいのは、マイナス金利になったからといって「現金を持っているのは危険だ」といった短絡思考で株式や外国債券、投資信託に過剰に資金を投入するようなことは止めるべきです。資産運用の大原則は、自分のリスク許容度に応じて「リスク資産」と「無リスク資産」を一定の比率で保有するということです。たとえマイナス金利がもっと大きくなったとしても、この大原則は変わりません。なぜなら、金利がマイナスだろうがプラスだろうが、「リスク資産」と「無リスク資産」それぞれの位置付けや意味は変化しないからです。それを理解するためには“リスク”という言葉の厳密な意味を理解することが大切です。
そもそも“リスク”とはどういった意味でしょうか。じつはリスクは「危険性」という意味ではありません(危険性は“ハザード”です)。経済学的にはリスクとは「変動に関する不確実性」と解釈します。だから投資におけるリスクとは、その投資対象の価格変動の不確実性と理解できます。例えば株式や債券(あるいは、それらに投資する投資信託など)は市場価格が変動します。しかし、その変動幅は予想不可能で不確実。だから「リスクがある」という。ポイントは、変動の「幅」が予想できないことをリスクと呼ぶ点です。つまり、価格が変動すること自体はリスクではありません。
こうした“リスク”という言葉の厳密な意味を押さえておけば、リスク資産と無リスク資産の違いがよくわかります。例えば現金は価格が変化しませんから無リスク資産です。銀行預金も預金保険制度の範囲内なら元利が保証され、規定の金利が支払われます。金利支払いによって金額は変化しますが、その幅は事前に定められていて不確実性がない。つまり無リスクです。個人向け国債はどうでしょうか。固定5年や固定10年ならやはり金利変動がありませんから無リスク。変動10年は半年ごとに利率が見直されますが、やはり半年間は利率が一定なので無リスクです。なにより個人向け国債は最低利回りの下限が年0.05%に制限されていますので、変動幅は「下限0.05%」で一定。それは無リスクということです(これに対し、通常の国債や国債ファンドは価格が予想不可能に変動しますからリスク資産です)。
では、例えば銀行預金や個人向け国債にマイナス金利が適用された場合はどうなるでしょうか(ここでは口座維持手数料の導入など実質的なマイナス金利も含めます)。それでもやはり無リスクです。なぜなら、たとえ金利がマイナスになっても、その幅は事前に告知され、変更されるとしても次の告知まで予想不可能に変動しません。それは無リスクということです。
だから、たとえマイナス金利が深くなっても、無リスク資産はあいかわらず無リスク資産です。にもかかわらず、勘違いして無リスク資産をリスク資産の転換してしまうのは、それこそリスク管理上の根本的な誤謬となる。だから、マイナス金利時代の資産運用でやるべきことは、無リスク資産からリスク資産へ資金を過剰に移すことではなく、無リスク資産内で商品の組み換えをすることぐらい。マイナス金利が心配なら、とりあえず個人向け国債変動10年を買っておけばいいと言う所以です。
だから今後、預金などにマイナス金利が適用されたとしても、私はあいかわらず無リスク資産の大部分を銀行預金で保有し、一部は個人向け国債変動10年に置き換えていこうと思います。口座維持手数料が導入されたとしても気にしません。どうせ大した金額ではないでしょうから。タンス預金なども論外です。多額の現金を手元に置くことによる盗難リスクや火災リスクの方が怖い。それこそ予想不可能な“リスク”です。だから資金管理の利便性を考えて、口座維持手数料ぐらい堂々と払えばいいのです。そんなものはクレジットカードの年会費みたいなものです。
とにかく無リスク資産というのは「無リスク」であることに意義がある。これは金利がマイナスだろうがプラスだろうが関係ありません。今後、「マイナス金利時代には現金保有は危険」などとバカなことを言う俗流経済評論家が多数登場するでしょうし、金融機関もリスク商品への勧誘を加速させることが予想されるわけですが、そんなものは聞き流しておけばいい。そもそも金融商品の世界では「不安を煽る言説の背後に、かならずそれをネタに儲けている人がいる」という不都合な真実があるのだから。
【補遺】
若干の補足をしておきます。無リスク資産についてはマイナス金利だろうが根本的な考え方を変える必要はありませんが、リスク資産については少し考えた方がいいかもしれません。とくに日本国債への投資は再検討の余地あり。長期金利がマイナスになると長期的には期待リターンもマイナスになる可能性があるからです。個人的には長期金利が恒常的にマイナスになった段階で日本国債に投資するファンドの追加購入は減らし、その分を個人向け国債変動10年に置き換えることを検討しています。