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2016年2月11日

マイナス金利の効果がジワジワと現われてくるのでは



日銀によるマイナス金利導入以来、大変な混乱となっています。日本国債の利回りが急激に低下しただけでなく、銀行預金の利率が軒並み引き下げられるなど一般庶民の生活にも微妙な影響を及ぼし始めました。おりしも日銀の思惑に反して円高が急激に進み、株価も暴落したことから、マイナス金利の効果を疑問視する声も増えてきました。私は金融の専門家ではないので、マイナス金利という金融政策の是非を判断する能力もないわけですが、確かに当初のサプライズ効果やアナウンスメント効果は剥落したとしても、なんとなく今後、マイナス金利の効果がジワジワと現われてくるような気がします。株式市場の需給バランスに微妙な変化を与えるような予感がするのです。

今回、マイナス金利の導入によってもっとも打撃を受けているのは短期債市場でしょう。なにしろ一時は長期金利の指標となる日本国債10年物の利回りさえマイナスに沈んだぐらいですから、短期債に至っては軒並みマイナス利回りとなっています。こうなると、短期債に投資する運用は、ほぼ成り立たなくなります。実際に短期債で運用されていたMMFは、国内11社すべてが新規販売を停止しました。

MMF購入受け付け 国内11社すべて停止(日本経済新聞)

新規購入の受け入れ停止だけでなく、日興アセットマネジメントのようにMMFを繰上償還する運用会社も出てきました。

「日興MMF(マネー・マネージメント・ファンド)」と「フリーファイナンシャルファンド」繰上償還のお知らせ(日興アセットマネジメント)

こうした動きは今後、さらに広がる可能性があります。というのも、企業さえ潰れなければ原理的に永久保有が可能な株式と異なり、債券には必ず満期があります。満期になれば現金が戻ってきますから、債券ファンドは償還された現金をつねに別の債券に再投資する必要がある。しかし、現在のように債券の利回りがマイナスになってしまうと、再投資する対象がないのです。

長期債に投資するファンドならマイナス利回りの債券に再投資しても途中売却することでキャピタルゲインを得ることができますから、しばらくはしのげるでしょう。しかし、MMFのような短期債に投資するファンドの場合、途中売却する時間的余裕が少ないですから、マイナス利回りの短期債に再投資することは元本割れに直結してしまいます。そして、MMFは元本割れが発生した段階で運用を停止し、繰上償還することが規約で定められている。だから今後、日興AMのようにMMFを繰上償還する運用会社が相次いでも不思議ではないのです。

そこでふと考える。MMFが繰上償還された場合、現金が投資家の元に戻ってくる。投資信託協会によると、1月末のMMF残高は約1.6兆円。決して少ない量ではありません。では、この資金はどこに向かうのでしょうか。もちろん現金のまま死蔵される可能性はあります。しかし、現金を保管するための預金の金利は限りなくゼロに近い数字であり、ここにきて口座維持手数料を徴収することも議論され始めました。債券に投資しようと思っても、やはり利回りはゼロ近辺。下手をするとマイナスです。残された投資対象は、株式と不動産(REIT含む)しかない。

MMFはひつの象徴的な商品ですが、原理は他の債券投資でも同じです。つまり、マイナス金利というのは基本的に、債券への投資が非常に難しくなるということを意味します。そもそも債券投資というのは、金利に対して投資することですから。そして、債券への投資が難しくなれば、資金は他の投資対象に向かわざるを得ません。好むと好まざるとにかかわらずです。

確かに現在の株式市場は、状況が極めて悪い。ここで新たに資金を投入しようと考える人は少ないでしょう。でも、そうしている間にも、株式に対する資金面での需給バランスが微妙に変化している可能性がある。これは相場の見通してはなく、需給という物理的な構造の問題です。そして、ひとたび相場が落ち着きを取り戻したとき、それまで見えなかった需給バランスの変化が突如として顕在化してもおかしくないのです。

こう考えると、マイナス金利の効果というのは、それこそジワジワと現われてくるもののような気がしてなりません。それが良いことなのか悪いことなのかはわかりませんが。

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