2016年2月1日

新興国に来ると日本のデフレ状態の異常さがよくわかる(附・マイナス金利について考えたこと)



今日から1週間、出張でインドネシアのジャカルタにいます。インドネシアに来るのはもう9回目なので、慣れたものです。いつもはシンガポール航空を使ってシンガポール経由で行くのですが、今回はガルーダ・インドネシアで関空から直行でした。ガルーダ・インドネシアといえば危険なエアラインの代表といわれたのもですが、それも過去の話。現在はナショナルフラッグ・キャリアに相応しいサービスに改善されていて驚きました。なんだかんだ言われても、やっぱり新興国やその国の企業はものすごい勢いで発展しているのです。そして、インドネシアのような新興国はあいかわらずのインフレですから、日本のデフレ状態の異常さがよくわかります。

インドネシアに来るたびに痛感するのですが、とにかく物価上昇がすごいです。くるたびにモノの値段が上昇している。ジャカルタ市内は公共交通機関がないので、移動はすべてタクシーなのですが、数年前ならたいがい50000ルピア(約500円)以内の料金で行けたところが、今回は60000~70000ルピアかかるようになりました。来るたびに初乗り料金が1000ルピア上昇しているような気がするのですが…

物価ネタをも少し続けると、昼食に行きつけの日本食レストランに行き、日替わり定食を食べました。ジャカルタはに日本人駐在員も多く、日本食レストランの味は日本と変わりません(ただしイスラム教徒が多いので、牛肉料理はマズイです)。



これで93000ルピア(約930円)でした。日本より高いです。数年前までは70000ルピアだったはず。やっぱり値上がりしてました。おまけに現地では高級な店になりますから、ここにサービス料と付加価値税が付きますので、支払いは日本円で1000円を超えます。1000円以下で昼食を食べようと思うと、かなりローカル色の強い店に行く必要があり、治安・衛生面から躊躇してしまうのです。

しかし、これは当たり前の話でして、インドネシアはここ数年、毎年6%程度のインフレ率で推移しています。これでも現地では「落ち着いている」といわれます。何しろひどいときはインフレ率が年10%を超える国ですから。その分、給料もものすごい勢いで上昇しています。最低賃金が年に20%程度上昇しますから。でも企業は「最近は最賃引き上げも落ち着いてきた」と言います。やっぱりひどいときは最賃も年50%近く上昇したことがありますから。

インフレが当たり前の社会なので、インドネシア人はあまり貯蓄せずに、旺盛に消費しています。貯蓄してもインフレと定期的な通貨暴落でリターンが悪いから。だから日本食レストランも現地人でいっぱいでした。テロで爆破されたスターバックスとかも人気です。すごい高い店なんですが。でも、そうやって消費が増加することが、GDPを押し上げ、経済を発展させていくというのが、資本主義の仕組みなのです。年6%は行き過ぎとしても、緩やかなインフレは資本主義経済の大前提なわけです。

そう考えると、日本のデフレ状態の異常さもよくわかります。500円以内でけっこう豪華な昼食を食べることのできる国なんて、よほどの途上国を除いてはありません。日本はモノの値段がどんどん下がったけれども、そのかわりに給料も大いに下がりました。それがデフレ経済というものです。インフレとデフレ、どちらが好ましいかはその人が置かれた立場で変わりますが、個人的には将来不安ばかり募る日本より、気軽に散財できるインドネシアの方が楽しいですね。年に何回かジャカルタに来るだけで、いつも気分が晴れます(気前よくお金を使うので、小遣いは減りますが)。

インドネシアで日本のマイナス金利について考えた


出発前、日本ではついにマイナス金利が導入されたわけですが、その意味についても考えさせられます。日本のようなデフレ経済では、現預金を持っておくのがいちばんリスクが低く、そこそこリターンも期待できる。インドネシアとは、ちょうど逆の状態です。だから日本では企業も家庭も、総体として膨大な過剰貯蓄を生み出しました。そこにマイナス金利が導入されるとは、どういうことか。まだ庶民には直接影響はないでしょうが、原理としては金融機関を通じて政府・日銀が民間部門の貯蓄を少しづつ吸い上げることを意味します。

マイナス金利の究極の効果は「財政救済」だ(東洋経済オンライン)

実際に日本国債の利回りは10年物で0.05%にまで低下しました。短中期債も9年物までマイナス金利です。超長期債である30年債ですら1%を切りました(いずれも2月1日現在)。この間も政府は新発債券を発行しているわけですから、財務省からすれば「マイナス金利、ウマー」です。そういえば、ひふみ投信の藤野英人さんや、春山昇華さんも面白いコメントを発表していました。


牛さん(買い方)は熊さんを二日にわたって滅多打ち。黒田バズーカの援護射撃で牛さん(売り方)はずりずり後退。だがしかし、普通はこういうときに強いはずの銀行株が売られてる。指数が伸びない理由。というのは、今までは日銀の犠牲のもとにバズー...
Posted by Hideto Fujino on 2016年1月31日


マイナス金利メモ_2マイナス金利は、当初の意図はともかく、明確な資産課税である。企業や家計の資本逃避(外貨建て商品、海外への資産移転)を促進する。金融機関の利鞘は縮小し、利益が減少する。金融機関がマイナス金利を避けるために超過...
Posted by 春山昇華 on 2016年1月31日


ちょっと極端な言い方ですが、理屈はあっています。インフレ率が0%でも金利がマイナスになれば、預金所有者にとっては実質インフレです。つまり、日銀がマイナス金利を導入したということは、当局が強制的にインフレを起こす手段を手に入れたということ。実質的な資産課税でもあります。それで経済が好転するかは別問題ですが(スタグフレーションというのがありますから)、多額の現金を持っている人は、大変な将来リスクを負うことになります。

金融緩和に加えてマイナス金利までやるとなると、庶民の資産運用は非常に厳しい問題を抱え込まざるをません。なにしろ政策が成功したら緩やかなインフレ、失敗したら金利急騰でハイパーインフレになる危険性があるわけですから。どっちに転んでもインフレに対する備えが必要だと個人的には考えています。

しかし、こういう世の経済の不安定さへ処し方というのは、なにも難しくはありません。昔からセオリーがあって、それは分散投資、すなわち財産三分法です。こんな不安定な時代だからこそ、現金、株式、不動産をバランスよく所有しとけばいい。先人の知恵に学びましょう。ちなみに財産三分法では、きちんと現金も一定以上保有することを薦めていることがミソです。間違っても「現金はリスクが高い」とかいって株や不動産に集中投資するようなことは止めてください。なにごとも極端はもっとも危険です。

いずれにしても最近の日本人はインフレ経済というものがどういうものかよくわかっていません。とくに若い人は体験がないですから。私も定期的に海外に行くようになってから、はじめて肌感覚として理解できるようになりました。その点でも、たまに新興国に行くことは、インフレ社会での過ごし方が分かって面白いです。旅行とかでもいいですから、ぜひ新興国に行ってみてはいかがでしょうか。

関連コンテンツ