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2016年1月6日

『Market Hack流 世界一わかりやすい米国式投資の技法』―1から10まで貴重な常識的投資技術論



じつは今年から趣味的に少額で米国の個別株投資に挑戦しようかと思っています。そこで米国株といえばこの人、広瀬隆雄さんのMarketHack流 世界一わかりやすい米国式投資の技法を読み直してみました。うーん、やっぱり面白い。書かれている内容は、広瀬さんが冒頭に書いているように「アメリカの投資家の間では常識と考えられている普遍性の高いもの」ばかりです。逆にいうと、ここに書かれている内容すら理解せずに投資するということがいかに無謀かということ。そういう意味で、1から10まで貴重な常識的投資技術論です。

広瀬隆雄さんはJPモルガンやSGウォーバーグで株式売買・引受業務に従事し、1990年代後半に米国で起こったドットコム・ブームを現地在住セールスとして体験した唯一の日本人だそうです。個人的にはブログ、Market Hackの編集長であり、マネックス証券のオンライセミナーなどで毎回楽しく相場環境をガイダンスしてくれる愉快なおじさんという印象が強いですが。本書でもブログやセミナー同様の語り口で楽しく読ませてくれます。

とくにChapter1「Market Hack流投資術」は一読の価値あり。ここで「Market Hack流投資術10ヵ条」として以下のことが紹介されています。

①営業キャッシュフローのよい会社を買え
②保有銘柄の四半期決算のチェックを怠るな
③業績・株価の動きの荒々しい銘柄と、おとなしい銘柄をうまく使い分けろ
④分散投資を心がけろ
⑤投資スタイルをきちんと使い分けろ
⑥長期投資と短期投資のルールを守れ
⑦マクロ経済がわかれば、投資家としての洗練度が格段に上がる
⑧市場のセンチメントを軽視する奴は儲けの効率が悪い
⑨安全の糊代をもて
⑩謙虚であれ(投資の勉強に終わりはない)

いずれも非常に大切なことです。とくに①や②は、個人投資家が“なんちゃって投資家”から脱却する重要な知識でしょう。また、個人投資家が意外と理解できていないのが⑤と⑥。⑦はまったくその通りだと膝を打ちます。そして、⑩は投資家が絶対に理解しておかなければなならないポイントです。広瀬さんは「『百戦百勝』とか『投資リターン数百%』などのウマい話は蜃気楼と同じ。それを信じるのは、情弱な奴だけ」「『オレは打率8割だ』と自慢する奴を(こいつはイタイ奴だな)と思えないのは、聞き手のリテラシーが低いから。投資の世界も全く同じ」と看破します。つまり、投資の世界でウマい話に乗せられるのは、「投資家の側に常識が欠如しているから」ということ。不思議なことに個人を相手にした投資の世界では、ときおり非常識な言説が堂々とまかり通るので、ここで紹介されている「常識的投資技術」を個人投資家は徹底して理解しておかなければいけないということです。

また、Chapter3「デイトレーダーへの道」も非常に面白い。意外なことに本書でもっともボリュームを割いているのがこの章。ここでは短期売買の手法をかなり詳細に解説してくれています。短期売買で儲けるために必要な最低限の手順が紹介されているわけですが、読み終わって「うん、自分にはデイトレーディングは無理だな」と心から納得してしまいました。とにかく手間暇がかかる。短期売買は、決して簡単に儲ける手法ではなく、それこそ地道な作業を経て初めて実践できる。だから「トレード・スクリーンを立ち上げてすぐに注文を出すような人は、とうてい勝てるトレーダーにはなれません」というのは至言でしょう。

Chapter5「2014年の投資機会」は付録的な時事内容(本書の刊行は2013年12月)なので現段階で直接的な利用価値は低いですが、2016年現在に読み直すとやはり別の面白さもあります。当たった部分もあれば外れた部分もあるのですが、「新興国の成長が比較的鈍化し、先進国の経済が復活する」という全体見通しは正解だった。ここでは予想内容よりも広瀬さんがどういったデータを基に判断を下しているのかという方法論を参考にするべきでしょう。

あと、Chapter2「ポスト団塊ジュニア世代のネストエッグ戦略」は、まさにポスト団塊ジュニア世代である私にとって身につまされる内容です。ポスト団塊ジュニア世代は、蓄財のチャンスにも恵まれず、そのうえ今後、高齢者の世話を見るために高い税金や低い月給に甘んじなければならない「ないないづくし世代」です。そんなポスト団塊ジュニア世代の資産形成には失敗が許されない。だから「ボチボチだったな」程度の成果を目指すべきだと広瀬さんは指摘し、次のようにまとめています。
アセット・アロケーション(資産配分)はつまらないでしょう。まともにアセット・アロケーションすれば、それは取り越し苦労だと感じられるし、リターンだって「まあボチボチだな」程度しか出ません。でもポスト団塊ジュニア層は「ないないづくし世代」なのです。だから妄想はやめて、できることから始めるしかないのではありませんか?
これもじつにつまらない結論です。しかし、このつまらない結論を現実として徹底的に受け入れることは、案外に難しい。それだけにやはり貴重な常識論なのです。「大きな失敗ができないのなら、堅いやり方で始めるしかない」とうことを改めて納得させられました。

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