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2016年1月20日
なぜ相場が低迷しても投資から一時撤退することをお薦めしないのか
あいかわらず世界的に方向感のない相場が続いています。日経平均も昨年末から2000円以上下落しているわけですから、かなり含み損が増えた人も多いのではないでしょうか。私も保有する投資信託と個別株ともに着実に含み損となった銘柄・商品が増えてきました。なんとなく市場環境が悪くなると、一時的に投資から撤退しようと考える人もいるでしょう。たしかに「休むも相場」ですから、むりに売買する必要なないのですが、一時的とはいえ保有資産を売却して、一時撤退することはあまりお薦めできません。なぜなら、投資から一時的とはいえ撤退してしまうと、結局は市場に居続けた人に資産を移転させるだけになるケースが多いからです。投資では、最後まで市場に居続けた人が、退場した人の分も含めてリターンを得ることになるのです。そこで今回、ちょっとしたモデルを使ってシミュレーションしてみましょう。
例えば南の島に完全に閉じられた経済圏があるとしましょう。この島にはX社という企業が1社だけあり、その純資産は20万円とします。X社は株式を2株だけ発行しています。非常に効率化された株式市場があるとして、PBRが1倍に収斂しているとすれば、X社の株価は1株10万円です。そしてこの島にはAさんとBさんという2人の島民だけがいるとします。それぞれ現金を20万円持っています。
いま、AさんとBさんはそれぞれX社の株を1株ずつ買いました。このときAさんとBさんの資産と島全体の資産総額は以下のようになります。
Aさん
現金10万円+X社株式評価額10万円=20万円
Bさん
現金10万円+X社株式評価額10万円=20万円
島全体の資産
Aさんの現金10万円+Bさんの現金10万円+X社株式時価総額20万円=40万円
さて翌年、島に台風が襲来し、X社が損害を被りました。純資産は18万円に減ってしまいます。そこで不安になったBさんはX社株をAさんに売却して投資から一時撤退することにしました。X社の純資産が18万円に減っているので、1株10万円ではAさんは買いません。そこでBさんはPBR1倍の9万円でAさんに売却します。株価は1株9万円に下落しました。このときのAさんとBさんの資産と島全体の資産総額は以下のようになります。
Aさん
現金1万円+X社株式評価額9万円×2=19万円
Bさん
現金19万円
島全体の資産
Aさんの現金1万円+Bさんの現金19万円+X社株式時価総額18万円=38万円
やがて1年経つとX社の業績が回復し、純資産も20万円に戻りました。だいぶ景気が良くなってきたのでBさんは再びX社の株を買い戻そうとします。しかし、Aさんは1株9万円では売りません。やはりPBR1倍の1株10万円でBさんに売却しました。株価は1株10万円に上昇しました。このときAさんとBさんの資産と島全体の資産は総額は次のようになります。
Aさん
現金11万円+X社株式評価額10万円=21万円
Bさん
現金9万円+X社株式評価額10万円=19万円
島全体の資産
Aさんの現金11万円+Bさんの現金9万円+X社株式時価総額20万円=40万円
なんと島全体の資産は40万円に回復しただけなのに、投資から一時的に撤退していたBさんと投資を継続したAさんで資産総額に2万円の差ができています。島全体の資産が変わらないということは、BさんからAさんに1万円が移転したことになります。ここが投資の非常に面白いところ。最後まで投資を継続した人が、撤退した人からリターンを奪っているのです。
もう少し思考実験を続けてみましょう。企業の成長を考慮に入れてみます。X社は営利企業ですから当然、利益を出しています。台風で被害を受けた年、X社は頑張って3万円の純利益を上げたとします。2万円を内部留保して純資産を20万円に回復させましたが、1万円は株主に配当することにしました。1株あたりの配当金は5000円です。この年、配当権利が確定したのはAさんがBさんにX社株を売却する前だったとすると、Aさんは配当金として5000円×2=1万円を得ました。これを考慮した最終的なAさんとBさんの資産、そして島全体の資産総額は以下のようになります。
Aさん
現金11万円+配当金1万円+X社株式評価額10万円=22万円
Bさん
現金9万円+X社株式評価額10万円=19万円
島全体の資産
Aさんの現金12万円+B三さんの現金9万円+X社株式時価総額20万円=41万円
BさんからAさんに1万円が移転されただけでなく、X社が事業の成長で得た利益もAさんは獲得することができました。
こうして投資を継続した人と一時的にでも市場から撤退した人の間に差が生まれるのです。これは個人投資家がよくよく考えないといけない点です。なぜなら、投資において損切りして市場から撤退するということは、相場が回復したときに損切りに相当する資産を市場総体として投資を継続していた人に献上することを意味するからです。Bさんからすると、なんだか癪に障りますね。おまけに投資対象の成長の果実も放棄してしまいます。
結局、投資とは最後まで市場に居続けた人が最大のリターンを得るようになっている。もちろん、今回のシミュレーションはあくまで思考実験であり、現実の市場はもっと複雑です。X社が倒産する場合もありますから、そうなればAさんは大損害です。だから個別株投資では倒産リスクをもっとも避けて銘柄選択しなければなりません。その点、インデックス投資は倒産リスクをかなり抑えることができるので助かります。「もし、永遠に株価が回復しなかったらどうするのだ?」と反論する人もいるかもしれませんが、経済や企業の成長を前提としないなら、そもそも投資なんかしなければいい。
では、どうしたら相場が低迷して含み損を抱えても市場から撤退しないですむのでしょうか。やはりこれは、自分のリスク許容度の範囲内で、余裕資金をもって投資することしかありません。余裕資金なら、いくら含み損があっても生活に支障はきたさないし、リスク許容度の範囲での投資なら、不安になって市場から一時撤退することを考えることもないからです。そして、私がFXや個別株の信用取引でハイレバレッジ取引をお薦めしない理由もここにあります。個人投資家がハイレバレッジ投資をすると、ちょっとした相場の変動でも市場から退場させられる危険性が飛躍的に高まります。それは個人投資家がもっとも避けなければならないリスク。お金持ちになることを目指して取引したあげく、かえって貧乏になるのでは、あまりに切なすぎるではないですか。
最近、世界的に株式市場が変調なのですが、あまり慌ててはいけない。個人投資家は、とにかく市場に居続けること、投資を継続することを第一に考えればいいのではないでしょうか。個別株で含み損があっても、その企業が倒産の危機にでも陥らない限りは損切りせずにホールドしておく。積立投資をしているなら淡々と積立を継続する。あとは投資したことなんか忘れて、南の島にでも遊びに行くことを考える。そうやって市場に居続ければ、なにもしなくても市場から退場させられた人からリターンが移転されてくる可能性が高まります。だから投資においては、なにもしないことが意外とリターンを高める最良の策だったりする。実際に世界の本物のお金持ちは、なにもせずに、セコセコと市場への入退場を繰り返している強欲な投資家からリターンを移転させているのかもしれません。ぜひそういう王道の資産運用を実践したいものです。