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2016年1月18日

『ケンブリッジ式経済学ユーザーズガイド』-投資家としての洗練度を高めるために便利な1冊



以前、広瀬隆雄さんが「マクロ経済が分かれば、投資家としての洗練度が格段に上がる」と書いていたのを読んで非常に納得しました。投資は勉強したからといってリターンが上がるわけではないのですが、やはり最低限の経済学的知識を持っていれば、投資家としての“洗練度”が高まるという考え方に賛同します。とくに私のように専門的に経済学の訓練を受けていない人は、下手をするとマスメディアに氾濫する俗流経済評論に毒されやすいので注意が必要です。そんなわけで啓蒙的な経済学の本を継続的に読んでいるのですが、最近読んだケンブリッジ式 経済学ユーザーズガイド: 経済学の95%はただの常識にすぎないは、なかなか面白かった。こういった啓蒙的なパンフレットこそ経済学者が書くべきものですし、個人投資家レベル、そして一市民としても読んでおいて損はないでしょう。

本書はおそらく大学の教養課程の学生あたりをターゲットに書かれた本だと思いますが、なかでも前半部分は資本主義小史と経済学説史がコンパクトにまとめられており、非常に便利。とくに古典経済学を前提として記述するスタイルがオーソドックスだけれども正しい。そもそも経済学の発展は、古典学派に対する批判として進んできました。だから、きちんとマルクス経済学についても解説しているし、オーストリア学派からシュンーペンタ―派、ケインズ派、制度学派、そして行動経済学派の違いについてもよく整理できています。

後半部分は応用編です。格差と貧困、労働と雇用、国際貿易といった現実の社会経済の現状をオーソドックスな経済学的知見をもって分析しているのですが、著者のやや介入主義的主張を別にすれば、なかなか鮮やかな手さばきです。基本的に著者の学問は英国流リベラリズムの影響が色濃いですから、なにより経済学は万能ではないし、一種の臨床的学問であるという感じがするのも好感が持てます。

こういった啓蒙的なパンフレットは、日本人こそ読んでおく必要があります。なぜなら、日本ではとくに経済に関する問題で、あまりに学問的裏付けのない言説がマスメディアで氾濫しており、意外とそれが世の中で影響力を持っているから。だからまず、こういった簡便なパンフレットを読んで、経済学のグランドセオリーを理解した上で、今度は経済学の教科書に進めばいい。すると理解の深度がまったく変わってきますし、バカな経済評論家や自称エコノミストのトンデモ経済論に惑わされずに済みます。それが投資家としての“洗練度”ということです。

そんなわけで、これまで経済学について勉強したことのない人が、とりあえず最初に目を通しておくガイドブックとしてお薦めの1冊でした。
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