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2015年12月7日
投資信託の販売会社は運用会社からの報酬引き下げ要請に応じる義務がある
超低コストファンドの登場や一部ファンドの信託報酬大幅引き下げ、確定拠出年金専用ファンドの一般販売開放などインデックスファンドの低コスト競争が激しくなってきたことで、これまでこの分野をリードしてきた有力インデックスファンドシリーズの存在感が一気に低下してきました。受益者の立場からすると、今後は既存の有力インデックスファンドシリーズの信託報酬引き下げを大いに期待したいところです。ただ、運用会社がいくら頑張っても乗り越えないといけないのが販売会社の壁でしょう。投資信託の信託報酬は通常、委託会社(運用会社)、受託会社(信託銀行)、販売会社(証券・銀行)で分け合っていますから、とくに販売会社が報酬引き下げに応じない限り、信託報酬の大幅な引き下げは難しい。だからこそ強調したいのですが、運用会社が信託報酬を引き下げるために販売会社に報酬の引き下げを要請した場合、販売会社はそれに応える義務があるはず。なぜなら、それが受益者の利益を第一に考える忠実義務、フィデューシャリー・デューティー(受託者責任)を果たすことだからです。
インデックスファンドの信託報酬引き下げは、単に運用会社の努力だけでは実現しません。とくに販売会社の報酬を大幅に引き下げない限り難しい。例えば国内債券に投資するインデックスファンドで信託報酬の異なる商品の報酬内訳を比較してみると、以下のようになっています(いずれも税抜年率。販売会社数は2015年12月4日現在)。
<購入・換金手数料なし>ニッセイ国内債券インデックスファンド
委託会社(ニッセイアセットマネジメント):0.065%
受託会社(三菱UFJ信託銀行):0.02%
販売会社(証券・銀行5社):0.065%
合計(信託報酬):0.15%
SMT国内債券インデックス・オープン
委託会社(三井住友トラスト・アセットマネジメント):0.15%
受託会社(三井住友信託銀行):0.04%
販売会社(証券・銀行23社):0.18%
合計(信託報酬):0.37%
eMAXIS国内債券インデックス※純資産50億円未満の分
委託会社(三菱UFJ国際投信):0.175%
受託会社(三菱UFJ信託銀行):0.05%
販売会社(証券・銀行32社):0.175%
合計(信託報酬):0.4%
並べてみると一目瞭然。信託報酬に占める販売会社の取り分は約50%を占めます。つまり、例えば三井住友トラストAMや三菱UFJ国際投信が頑張ってニッセイAM並みに信託報酬を引き下げても、販売会社の取り分も同じように引き下げないと信託報酬全体を引き下げることができないのです。その意味では、信託報酬引き下げのカギを握るのは販売会社です。
では仮に三井住友トラストAMや三菱UFJ国際投信が信託報酬を引き下げるために運用会社としての取り分を半減させた上で、販売会社に同様の報酬引き下げを要請した場合、販売会社はどうするべきでしょうか。これはすでに答えが出ています。販売会社は報酬引き下げ要請を受け入れなければなりません。なぜなら、信託報酬の引き下げは販売会社にとっては利益の一部喪失ですが、受益者にとっては利益拡大です。金融機関にとって自己の利益と受益者の利益が相反した場合、受益者の利益を守らなければなりません。それは金融機関に課せられた忠実義務であり、運用ビジネスにおけるフィデューシャリー・デューティーを果たすことになるからです。
その意味で、既存のインデックスファンドを組成している運用会社は、自らの報酬を引き下げた上で堂々と販売会社にも報酬引き下げを要請すべきです。もし、要請を断る販売会社があれば、それはフィデューシャリー・デューティーを果たさない金融機関なのですから、商品の販路から切り捨てるべきでしょう。受益者に対する忠実義務を果たさない相手とは取引しないというのも、フィデューシャリー・デューティーを果たすことです。そして同様のことは、受託会社たる信託銀行に対してもあてはまります。
販売会社も腹をくくるべきでしょう。金融庁が金融機関にフィデューシャリー・デューティーの履行を求めているというのは、具体的にはこういうことなのです。そして何度も書きますが、そもそも金融機関が理解すべき大切なことは、運用会社・信託銀行・販売会社すべてを含む意味での受託者の利益は、受益者の利益の上にしか存在できないということです。そのことを前提にする限り、受益者の利益を最大化することは、結果的に受託者の利益をも最大化することになる。だから金融機関は、フィデューシャリー・デューティーの履行を規制ではなく、自己の利益を最大化する条件だと考えるべきです。実際に、このほどニッセイAMは<購入・換金手数料なし>シリーズの信託報酬を大幅に引き下げました。それは同時に同シリーズの販売会社である証券・銀行も報酬引き下げに応じたということです。これら証券・銀行はフィデューシャリー・デューティーを果たしたのです。このことを他の金融機関も注視するべきでしょう。
フィデューシャリー・デューティーは法規制ではありませんが、それ以上に強い自己規律をともなう行動規範ともいえます。販売会社は、そのことを重々承知した上で投資信託の健全なコスト競争の阻害要因にならないようにしてもらいたいものです。それが金融機関として果たすべき受益者への忠実義務、フィデューシャリー・デューティーなのですから。
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