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2015年12月27日
内藤忍氏推奨のワインファンドへの行政処分に想ふ-投資している自分が特別だと思い込む“意識高い系”の病について
内藤忍氏といえば、私がインデックス投資について勉強し始めたころに大いに影響を受けた一人でした。ところがここ数年は、ワイン投資や海外不動産投資推奨派に転向し、インデックス投資家の多くを戸惑わせてきました。その内藤氏が推奨するワインファンドが、金融商品取引法違反で登録取り消しという重い行政処分を受けてしまいました。
株式会社ヴァンネットに対する行政処分について(財務省関東財務局)
業務停止命令や業務改善命令ではなく、いきなり登録取り消しというのは、極めて重い処分です。関東財務局の発表を見ると、典型的なポンジ・スキームのようですから、刑事事件に発展してもおかしくありません。結果的に、こういった詐欺的ファンドを内藤氏が推奨していたことになり、非常に残念です。同時に、今回の事件でいろいろと考えさせられました。こうした問題にひっかかるのは、第一義的に投資に対する知識不足と心構えの間違いが原因なのですが、ワインファンドや、やはり内藤氏が推奨している海外不動産投資などに走ってしまう個人投資家というのは単純に知識不足だとは思えず、逆にけっこう勉強家だったりします。問題は、投資をしている自分という存在に関する認知心理上の錯誤を突かれているのでは。それは、投資している自分が特別だと思い込む“意識高い系”の病ではないでしょうか。
今回の事件については、すでに何人かの投資ブロガーさんが適切な指摘をしてくれています。
ヴァンネットに行政処分 投資で大事な流動性や透明性を再認識(ほったらかし投資のまにまに)
ワインファンド運営会社のVIN-NET(ヴァンネット)が金融商品取引業者の登録取り消し。そして強く推奨していた方は…(吊られた男の投資ブログ(インデックス投資))
ワインファンド取り潰し。運用実態の見えないものに投資するのはやはり駄目です。(海舟の中で資産設計を)
これらの意見にほぼ同意します。私自身も実際に旧ブログなどで何度か内藤氏の姿勢の疑問点を批判してきました。
ますますトンデモないことを言い出した内藤忍氏-不動産は債券の代替にはなりません(アーツ&インベストメント・スタディーズ(別科))
コモディティ投資は個人投資家にとって“無理ゲー”(同上)
普通に考えれば、ワイン投資や海外不動産投資などは個人投資家が軽々に投資すべきものではないということが分かります。なぜなら、ほとんどの投資詐欺は投資対象の透明性や流動性に対する無知が原因なのですが、コモディティや海外不動産というのは、この点の判断が非常に難しく、個人投資家の手に余るのです。
とはいえ、今回のワインファンドの問題は、単に投資家の無知につけ込んだものではない点が非常に考えさせられました。というのも、個人投資家がワイン投資に足を踏み入れる過程で、常識的な資産運用のプロセスを経るという構図になっているからです。そこで大きな役割を果たしたのが内藤氏でした。例えば内藤氏は内藤忍の資産設計塾【第4版】 (豊かな人生に必要なお金を手に入れる方法)の中で常識的なインデックスファンドによる国際分散投資を薦めながら、上級編として実物投資を薦めており、その対象がなぜかワインと海外不動産です。そして、内藤氏の現在の肩書は「一般社団法人海外資産運用教育協会代表理事」であり、投資教育活動を進めています。つまり、投資についてものすごく勉強する意欲がある人、あるいは勉強した人にワイン投資や海外不動産投資を薦めているのです。
では、なぜ投資について勉強した人がワイン投資や海外不動産投資に関心を持ってしまうのでしょうか。内藤氏は実物投資の世界に「市場の歪み」があり、そこからインデックスを上回る超過リターンを得ることができると主張しました。それ自体は事実です。問題は、どうやって個人投資家が「市場の歪み」を発見できるかなのですが、ここに個人投資家の認知心理上の錯誤が生じる。つまり、「勉強すれば「市場の歪み」を発見できるはずだ」「これだけ投資について勉強している自分は、他の人よりも正しく投資対象の価値を見出せるはずだ」というオーバーコンフィデンス(自信過剰)バイアスに陥るのです。そこを突かれて、ワイン投資や海外不動産投資が自分にとって有効だと思ってしまう。
この仕組みが厄介なのは、投資について無知だから騙されるのではなく、投資について勉強すればするほど騙される可能性が高まるということです。もちろん、勉強の仕方自体が間違っているのですが、なかなかそのことには気が付きにくいものです。恐らくワインファンドに投資している人に質問すれば、ファンドの仕組みや有効性について詳細に語ってくれるでしょう。そこでは「よく理解できないものには投資してはいけない」という原則は通じません。投資家は、投資対象について理解してるからです。でも、理解した内容が“事実”どうかを疑うことができなかったことが致命的でした。
このようなオーバーコンフィデンスによる誤謬には、個人投資家はよくよく気をつけなければなりません。とくに日本の場合は、投資という行為自体がまだ一般的でないので、なにか投資しているだけで特別なことをしているという錯覚に陥りやすい。そして投資について勉強すればするほど、自分には特別な知識があると勘違いしてしまう。でも、べつに投資しているから特別でもないし、勉強しているから偉いわけでもありません。そもそも個人投資家が実行する投資活動や、勉強して得た知識などは、実際はチンケなレベルです。チンケな知識や実績しかないのに、自分は特別だと思い込むのは、典型的な“意識高い系”の病です。
そう考えてみると、今回のワインファンドの問題というのは“意識高い系”の病を上手く突かれたということでしょう。そして、最近の内藤氏やその周辺には、そういった“意識高い系”を引き寄せる空気があります。
「ちゅうつねカレッジ」で見えた人生の「向こう側」(SHINOBY'S WORLD)
内藤忍さんのおうちでバーベキュー。(はあちゅう主義。)
べつに内藤氏や伊藤春香氏のライフスタイルを批判しているのではありません。しかし、こういう雰囲気の中に詐欺師が紛れ込んでくる土壌があるように感じるのです。なぜなら、そもそも投資や資産運用に限らず、人間の日常生活というのは本来は地味なものなのです。あるいは地味な中に、本質的な価値がある。そのことを認めないかぎりは、真面目な人ほど”意識高い系”の病にかかる危険性がある。それを詐欺師は巧みに利用するのです。
現代社会は、“普通”であることの価値を非常に低く見がちです。でも、普通であることは、とても価値あることです。投資や資産運用も同じではないでしょうか。普通の投資でいいんですよ。リターンだって普通でいい。個性は人生の中で発揮するものであって、投資なんかで奇をてらっても意味がありません。人と違う投資手法に魅力を感じたり、そういったことに関心を持つ自分を特別だと思うのは、しょせんは“意識高い系”の病です。そもそも投資などは、しなくて済むならそれに越したことはないものなのですから。今回のワインファンドと内藤氏の問題は、自戒も含めて、そういった投資の難しさを感じさせる事件でした。