2015年11月30日

本物の富裕層はこんな商品買いません-SMBC信託銀行の米ドル建てラップ型ファンドが驚きの高コスト



三井住友フィナンシャルグループがシティグループからシティバンク銀行のリテール部門を買収し、今月からSMBC信託銀行の新ブランド「プレスティア」として再出発しています。なんでも「富裕層ビジネスを拡大する」とかで、すごい鼻息です。

SMBC信託の新ブランド営業開始 「富裕層ビジネス拡大」(「日本経済新聞」電子版)

その「富裕層ビジネス」の目玉のひとつが、“日本初”となる米ドル建てのラップ型ファンド、プレミアム・ファンズ ウェルス・コアポートフォリオ コンサバティブ型(米ドル建て)/グロース型(米ドル建て)だそうです。大人気のラップ型ファンドですが、今度は米ドル建て外国投資信託で登場しました。

SMBC信託銀行、“日本初”の米ドル建てラップ型外国投信販売―「攻め」と「守り」無料でスイッチング(モーニングスター)

どれほどすごいものなのかと思い目論見書を見て驚きました。ものすごい高コスト投信です。そして、それ以上に考えさせられたのがコスト配分の中身。SMBC信託銀行のプレスティアが掲げる「富裕層ビジネス」って、なんなんだろうと思ってしまいました。

プレミアム・ファンズ ウェルス・コアポートフォリオは、SMBC日興インベストメント・ファンド・マネジメント・カンパニー・エス・エイが管理するサブ・ファンドを通じてゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント・インターナショナルが運用する海外ファンドに投資する仕組みです。先進国や新興国の株式・債券、ハイ・イールド債券、REITなどに分散投資し、資産配分も相場環境に合わせて機動的に変更するというラップ型ファンドですが、株式を中心に投資するグロース型と債券を中心に運用するコンサバティブ型のサブ・ファンドを自由にスイッチングできるそうです。はたしてこういった運用が実際に効果的にできるのかのという評価は措くとして、驚くべきはそのコストの高さでしょう。

目論見書を見ると、購入手数料は購入額が100万ドル未満なら1%、100万ドル以上でも0.5%必要です。そして信託報酬はサブ・ファンドの管理報酬として年1.39%+0.01%=1.4%かかります。これに加えて、投資先ファンドの報酬としてグロース型は年0.75%、コンサバティブ型でも年0.6%かかります。つまり合計コストは株式運用が中心のグロース型が年2.15%、債券運用が中心となるコンサバティブ型でも年2%かかるわけです。これだけコストが高いと、たとえスイッチング手数料が無料でも、確実にリターンを蝕んでいくことが予想されます。

しかし私は、単にコストが高いことを不審に思っているのではありません。問題は、コスト配分の中身です。サブ・ファンドの管理報酬の方が運用先ファンドの報酬よりもはるかに多い。このファンドはSMBCグループとGSグループで信託報酬を分け合っているわけですが、サブ・ファンドを管理するSMBCグループの取り分の方は実際の運用を担当するGSグループの取り分の約2倍です。これって、おかしくないですか。ようするに日本人が買いにくい外国のラップ型ファンドを、SMBCグループが買えるようにしてあげたのだから、その手数料をいただくということなのでしょう。しかし、あまりに日本の個人投資家に対して不誠実な報酬水準です。

こういったものを見せられると、SMBC信託銀行が唱える「富裕層ビジネス」って、なんなんだろうと思ってしまう。高い手数料をとることが富裕層ビジネスなのでしょうか。その意味では、GSの方が誠実です。ラップ型ファンドを信託報酬0.75%~0.6%で提供しているのですから。ここからは憶測ですが、きっと本物の富裕層はSMBC信託銀行のラップ型ファンドなんか買わないでしょう。普通にGSから直接買って、適正な報酬水準で運用してもらうに違いありません。

結局、日本の金融機関が唱える「富裕層ビジネス」や、それを対象にしたラップ型ファンドといっても、実際の富裕層には相手にされない商品になっているような気がします。本物の富裕層というのはコストに敏感なものですから(そうでないと富裕層にはなれません)。そうなると“富裕層向け商品”なるものは「富裕層向けなのだから、きっとすごい商品に違いない」と軽率に思い込んでしまう金融リテラシーの低い庶民をハメ込むための商品だと批判されても仕方がない。そういう態度が不誠実に感じるのです。

私はラップ口座やラップ型ファンドを全否定はしません。そういったサービスが必要な人が現実にいるのは事実ですから。しかし、もう少し誠実な商品を提供することはできないものでしょうか。SMBC信託銀行にしても、こんな“ボッタクリ”と批判される可能性がある商品を打ち出すようでは、せっかくの「プレスティア」ブランドが泣きます。それは、SMBC信託銀行の今後の事業運営にも、決して良い影響は与えないと思うのです。
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