2015年11月27日

日本人労働者の給料が増えない理由とその対抗策-なぜ海外資産への投資が必要なのか



年の瀬も迫ってくると、サラリーマンにとって嬉しいのが冬のボーナスです。ところが残念なニュースが入ってきました。どうやら今年の冬のボーナスは全体として厳しい状況になりそうです。

日本の勤労者はまた失望か、冬のボーナスは減少へ(ブルームバーグ)

アナリストの予想では、正社員の年末賞与は平均で1~2%のダウンとなる見込みだとか。企業収益は史上最高をマークするなど好調が続いているだけに、何とも解せない話です。企業は儲かっているのに、なぜ労働者の給料は増えないのでしょうか。この問題に関して、興味深い論考がありました。

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これは日本人労働者の所得が増えなくなった理由をよく説明しています。キーワードは「労働分配率」と「海外からの所得」。そして、日本人の給料が増えなくなった理由が分かれば、私たちのような労働者がとるべき対抗策も見えてきます。それは、なぜ個人レベルでも海外資産への投資が必要なのかという理由にもつながってくるでしょう。

東洋経済の記事が指摘するように、日本人の所得が伸びなくなった理由は、端的に言って労働分配率が低下しているからです。だとするなら、労働者の執るべき手段はひとつしかありません。労働分配率の引き上げを求めて資本家と交渉することです。労働者が個別に交渉しても交渉力に限界がありますから、やはり労働組合による労働運動というのは非常に大事。私も小さな労働組合の委員長をやっていますが、いつも組合活動による経済闘争には全力を挙げています。おかげで今年の冬のボーナスも、前年実績から若干ながらですが上積みを勝ち取ることができました。最近は組合活動というとバカにされることも多いのですが、決して馬鹿にしてはいけない。組合活動を馬鹿にしていると、知らないうちにどんどん労働分配率を引き下げられてしまいます。
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しかし、労働運動だけでは問題が解決しないのが現在の高度資本主義社会です。なぜなら現在の企業の多くは、国内だけでなく海外からも所得を得ているから。そして海外からの所得は、国内の労働者には分配されにくいのです。東洋経済の記事も次のように指摘しています。
近年の世界経済のように海外への投資が活発になっている状況では、労働分配率が一定になるとは期待できない。なぜなら、所得が賃金と資本に分配されると考えるのは、所得を得るためには労働と資本の両方が必要だからだ。
しかし、海外から得られる財産所得は国内の労働を必要としない。例えば海外子会社から得られる配当が、日本にある本社で海外戦略を担っているような部門で働く人達の賃金に反映されることはあるだろうが、国内の工場などで働く人達の賃金にも分配されるとは考え難い。
今後対外投資を拡大することで海外からの所得が増え、日本全体としては所得の増え方が速くなるはずだ。しかし、対外資産から得た所得が普通の労働者に賃金として分配されるとは考えにくく、国民所得の伸びを賃金の伸びが下回って、国民所得の中で賃金に分配される比率である労働分配率は低下していく可能性が高いだろう。
これは、考えてみれば当たり前の話です。企業が海外で得た所得は、海外の労働者に分配されているはずですし、また、分配するべきです。そうでなければ、企業の海外事業は一方的な収奪になるわけですから、現代において許容されるはずがないし、するべきでもない。そして、企業の収益に占める海外所得の比率が高まれば高まるほど、日本人に分配される所得の原資は少なくなる。これが日本の労働分配率が低下している理由でしょう。

だとするならば、日本の労働者はいかなる対抗策を執るべきでしょうか。私は、それが株式投資だと言いたい。すでにブログで紹介しましたが、労働者が株式を所有するということは、企業が得た収益、すなわち剰余価値のあらゆる分配局面に参入することです。そうすることで、労働分配以上の分配を得ることになり、私たち労働者が提供した労働力商品によって生み出された剰余価値の一部を取り戻す作業なのです。
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そして、企業が海外からの所得を国内の労働者に分配しないなら、労働者は海外資産に投資することで海外で生み出されている剰余価値も取り返す道筋を確保するべきです。ここに、日本人が個人レベルでも海外資産に投資する必要性がある理由があります。海外企業の株式に投資してもいいのです。なぜなら、海外企業も日本市場や日本企業との取引によって収益の一部を上げているのですから。それらの一部も元々は日本人労働者が提供した労働力商品から生み出された剰余価値の一部です。堂々と分配にあずかればいいのです。

幸いにも現在は海外株式に投資するインデックスファンドという便利な道具もあり、労働者でも低コストで海外資産に投資することが可能になりました。だったら、これを利用しない手はない。企業活動がグローバル化しているなら、それに合わせて労働者が剰余価値を回収する手段もグローバル化しなければなりません。労働運動によって労働分配率の向上を不断に求めながら、投資によっても剰余価値を回収するという戦略が求められているのです。そして、その範囲も国内だけでなく海外にまで広げていくことが重要です。日本のような先進国の労働者こそ、なかんずく海外資産への投資が必要なのではないでしょうか。

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