個人型確定拠出年金は、掛金全額が所得控除されるため課税繰り延べ効果が見込める非常に有利な制度です。インデックス投資を長期で行うことを考える場合、まず最初に加入を検討するべき制度だといえるでしょう。ただ問題は、運用する商品の信託報酬のほか、かなりの手数料がかかることです。個人型確定拠出年金に加入すると以下の手数料が必要となります。
国民年金基金連合会加入手数料:2777円(加入時のみ)
国民年金基金連合会口座管理手数料:年1236円
事務委託先金融機関口座管理手数料:年768円
運営管理手数料:金融機関によって異なる
このうち、どの金融機関のプランに加入しても一律課せられる国民年金連合会加入料手数料、国民年金基金連合会口座管理手数料、事務委託先金融機関口座管理手数料については、現在の手数料水準が適正なのかは別として、措くとします(システムの構築・維持にそれなりのコストがかかっていると想像できますから)。問題は金融機関によって金額が大きく異なる運営管理手数料です。
現在、個人型確定拠出年金プランを運営している金融機関を見てみると、運営管理手数料の多寡に大きなバラツキがある。最安値のSBI証券(残高50万円以上)とスルガ銀行が年0円に対し、もっとも高額なのは群馬銀行の年5700円。私が加入している琉球銀行は年4668円です。琉球銀行と同じく信託報酬が安い商品がそろっている野村證券が年4104円。最近、有力な選択肢として注目しているりそな銀行でも年3792円です。
これだけバラツキがあるのは、いくらなんでも酷いと思う。しかも、べつに運営管理費が高いからといって商品ラインナップが優れているわけではありません。例えば群馬銀行の場合、インデックスファンドでも信託報酬は年0.7%前後という高コストなものしかありません。つまり、運営管理手数料の多寡と商品ラインアップの良し悪しはまったく関係がない。
では、運営管理手数料を取っている金融機関は、手数料に見合うサービスを加入者に提供しているかどうか。これも非常にこころもとない。私が加入している琉球銀行の場合、年に数回、ペラ1枚のお知らせが届く程度です(ほかの金融機関のプランに加入している人はどうなのでしょうか。ぜひ情報を発信して欲しいと思います)。ようするに現在の運営管理手数料の水準にまったく合理性が感じられない。そして、こういった不透明な手数料体系が個人型確定拠出年金の普及を妨げているともいえます。
現在、金融庁は「金融モニタリング基本方針」の中で金融機関に対してフィデューシャリー・デューティー(受託者責任)を果たすことを強く求めています。そこでは、手数料の合理性についても監督・検査すると明記されました。ところが7月に発表された「金融モニタリングレポート」を読んでも、確定拠出年金についての具体的な記述は皆無です。つまり、確定拠出年金の手数料については、ほとんどモニタリングしていないと疑われても仕方がない。
百歩譲るとして、国民年金基金連合会に支払う手数料は年金行政の管轄であるから金融庁が監督・検査しないことは認めるとしましょう。しかし、運営管理手数料は、金融庁が監督すべき金融機関が直接に徴収している手数料です。ならば、この手数料水準もフィデューシャリー・デューティーを果たしているか金融庁はモニタリングするべきです。
年金行政というのは厚生労働省の管轄のなかでもとくに聖域とされ、莫大な特別会計も含めて他の省庁が口出しすることは“統帥権干犯”問題となることは承知しています。しかし、少なくとも金融機関が業務として取り扱っている以上、金融庁は確定拠出年金の手数料についてもしっかりとモニタリングするべきでしょう。それによって現在のいびつな手数料体系が広く周知されることで、金融機関も考え方を改めるはずです。また、金融機関も年金制度であることにあぐらをかくのではなく、フィデューシャリー・デューティーの観点から現在の運営管理手数料が合理性のある水準なのかをしっかりと吟味して欲しいと思います。
【関連記事】※個人型確定拠出年金についてはサブブログ「アーツ&インベストメント・スタディーズ(別科)」でも何度も言及していますので、こちらも参照ください。
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