2015年10月16日

投資のプロでも損するときは損します-ヘッジファンドの清算相次ぐ



ヘッジファンドと聞くと日本人はなんだかすごい投資のプロ集団というイメージを持ちがちなのですが、やはり相場の世界というのは難しいもので、どんなプロ投資家でも簡単には勝たせてもらえないようです。ブルームバーグによると、ここにきてヘッジファンドの清算が相次いでいるとか。

ヘッジファンドの清算相次ぐ、ボラティリティの犠牲か(ブルームバーグ)

やはり投資のプロでも損するときは損するということでしょう。日本ではときおりヘッジファンドに対する過剰な期待を利用した投資詐欺が登場しますが、そういった過剰な期待は幻想です。ヘッジファンドがうたう「絶対収益」なるものは、そんな簡単に実現するものではないということがよくわかります。

ブルームバーグの記事は現在のヘッジファンドが置かれた悲惨な状況を次のように伝えています。
ブルームバーグのデータによれば、今年これまでに清算が発表されたヘッジファンドの資産は合計160億ドル(約1兆9000億円)を上回る。フォートレスは13日、マイケル・ノボグラーツ氏が運用する23億ドル規模のマクロファンド事業を閉鎖すると発表。ベインも先週、マクロファンド閉鎖を明らかにした。(中略)今年は1月のスイス・フランの急騰に始まり、8月の人民元切り下げ、原油と金相場の下落など、波乱が多い展開となっている。
さすがに投資のプロ集団も、現在のボラティリティーの高い相場環境には太刀打ちできなかったということでしょうか。あげくの果てに助言会社に「ヘッジファンドのビジネスモデルには欠陥が内在している」とまで言われては立つ瀬がありません。

大手ヘッジファンドのフォートレス・インベストメント・グループが清算に至る過程については、豊島逸夫さんの報告がリアルです。

利上げ先送り、円高で大手ヘッジファンド閉鎖(豊島逸夫の手帖)

落ち目のときというのは、なにをやっても上手くいかないもので、フォートレスの打つ手がことごとく裏目に出てしまったわけです。
外為関連のポジションは、本欄6月8日付け「130円まで真空地帯、ヘッジファンドどう動く」で書いたように、125円前後から更なる円売りポジションを醸成するファンドが多かった。フォートレスも、その円安派だったと見られる。
その間、8月24日には、一気に短時間で116円台まで円高が急進して、多くのストップロス(損失限定)のための円買いが発動される一幕もあった。
更に、ブラジルへの投資が傷口を広げたと見られる。
昨年の投資コンファレンスでは、ルセフ大統領が再選挙で負けると予測していた。新政権誕生期待からレアルとブラジル株の上昇に賭けたとヘッジファンド業界では語られている。
フォートレスの名物ファンドマネージャーであるノボグラーツ氏が発した「この二年間は極めて厳しかった。現状の市場が、ベストの成績を達成できる環境とは思えない」という言葉には、やはり相場を読んで運用することの難しさがにじみ出ています。

ヘッジファンドは通常、高額の手数料を取っていますので運用成績が悪化するとすぐに解約されてしまうのも事態の厳しさに拍車をかけている。豊島さんも次のように指摘しています。
8~9月の世界株安連鎖で、多くのヘッジファンドが、損失を記録している。米国最大の年金基金カルパース(カリフォルニア州職員退職年金基金)は、はやばやと、ヘッジファンドを運用対象から外すと発表していた。
11月の決算期に向けて、更なるヘッジファンドの縮小・閉鎖が起こる可能性が市場では指摘されている。

ところで、ヘッジファンドに関連して豊島さんが気になる情報をアップしています。

ヘッジファンド決算期前に強行される郵政上場(豊島逸夫の手帖)

追いつめられたヘッジファンドの一部が、起死回生となる最後の大勝負に撃って出る可能性があるのが日本郵政グループのIPOに絡む相場だとか。たしかに日本郵政グループのIPOは売出し総額1兆円を超える大規模なものです。東証1部全体の1日の売買代金がだいたい2兆円程度ですから、日本郵政グループのIPOがどれほど大規模なものかわかります。これだけの大型IPOが実施されたとき、市場にどのような影響が出るのか。ここにヘッジファンドが仕掛けるチャンスがあるのかもしれません。豊島さんの次の指摘にはよく耳を傾けた方がよさそうです。
世界同時株安2.0の可能性も視野に入るなか、オールジャパン・シフトで成功させねばならない案件をかかえる日本市場は、ただでさえ外人プレーヤーの売買が6割以上を占める。
そこに、日本人個人投資家が、期待をこめて、郵政上場をチャンスと狙っている。「小遣い稼ぎ」程度の意識で参入を目論む初心者も多そうだ。
ヘッジファンドには、「動かしやすい」市場に映るのだろう。
日本人個人投資家対ヘッジファンドの構図は、思わぬボラティリティーを生む可能性をはらむ。
ちなみに、週刊現代今週号の、「日本郵政株、私は買うか、買わないか、プロ20人の最終決断」というアンケート調査で、私は「買わない派」でした(笑)。

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