2015年10月14日

投資信託の利点を放棄した日本郵政株式/グループ株式ファンド



いよいよ11月4日に日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険のIPOが実施されます。日本郵政グループのIPOに関しては、個人的にはいろいろと思うところがあり、とくに興味もありません。ただ、さすがに「これはオカシイ」と思ってしまった投資信託が登場しました。日興アセットマネジメントが10月15日に設定し、三井住友信託銀行が販売する日本郵政株式/グループ株式ファンドです。その名の通り、日本郵政グループ3社の株式に投資するファンドですが、さすがにこれはないだろうと思ってしまいました。なによりこのファンド、投資信託という仕組みの利点をまったく放棄してしまった商品です。おまけに信託報酬の合理性にも疑問を持たざるを得ないというのが正直な印象です。

投資信託というのは個人投資家にとって非常に便利な商品です。その最大の利点は、小口資金でも幅広い銘柄への分散投資ができること。このメリットは、個別株投資を経験していると非常に大きく感じるものです。個別株投資の場合、ある程度分散したしたポートフォリオを組もうと思っても、実際は大変。何より非常に大きな資金が必要となります。その点、投資信託なら通常1万円から、積立なら最低500円から幅広い銘柄に投資できます。これが投資信託の最大の利点です。

ところが日本郵政株式/グループ株式ファンドは、投資対象がわずか3銘柄だけ。しかも親子上場する3社ですから事実上、日本郵政グループという1企業体に集中投資する形になります。たしかに3銘柄を現物で買えば今回のIPOでも約50万円が必要と予想されますから、投資信託の形にすることで1万円から買うことができるというのはメリットなのでしょう。しかし、そもそも小口資金しか出せないような人が特定企業に集中投資するのがおかしいともいえます。余裕資金の少ない人ほどリスク分散を図るべきで、だからこそ投資信託は小口資金しか出せない個人投資家にとってメリットのある商品だったはず。その意味で、日本郵政株式/グループ株式ファンドは、自ら投資信託の利点を放棄してしまった商品のように思えます。

さらにコスト構造についても疑問があります。購入手数料が最大1.62%(税込)が必要な点は措いておきます(現物株を買っても売買手数料が必要ですから)。問題は信託報酬。なんと年0.6912%(税込)です。わずか3銘柄を保有するだけで、なぜこれだけのコストが必要なのか。現物株の場合、保有コストはゼロですよ。いくらなんでも高すぎる。

そもそも信託報酬は何に対するコストでしょうか。基本的には運用コストです。ファンドが、保有する銘柄の中から値上がりした銘柄を売って利確し、割安な株を買い増すといった運用行為に対する労働対価です。ところが日本郵政株式/グループ株式ファンドの場合、3銘柄でどうやってアクティブな運用を行うつもりなのでしょうか。わずか3銘柄のポートフォリオでは、基本的に買い持ち戦略を取らざるを得ないはずです。それに対する労働対価として、この信託報酬は合理的なのでしょうか。

もちろん、ファンドの仕事は銘柄の売買だけではありません。銘柄選択のための調査・分析も重要な仕事ですから、そのコストとしても受益者は信託報酬を支払っています。しかし、この日本郵政株式/グループ株式ファンドの場合、投資対象は3銘柄(しかも同じ企業グループ)に決まっているので銘柄選択は必要ありません。どういった調査・分析を行うのでしょうか。3銘柄だけですから、会社訪問ならへたをすると1日で3社を回れます。企業分析だってそんなに時間・労力はかからないでしょう。それに対して、この信託報酬水準が合理的なのか考える必要があります。

そして最後に気になる点を指摘しておきます。このファンドを新規設定段階で買うと、ファンドを通じて間接的に日本郵政グループのIPOに参加することになるのですが、十分な株数を確保できるかどうかわからないということです。これは目論見書でも「新規公開株式に関するリスク」として次のように明記されています。
当ファンドは、2015年11月に予定されている日本郵政株式会社およびそのグループ会社の株式上場にあたって、新規公開株式の取得をめざしますが、当ファンドには、これらの株式がファンドの純資産総額の一部にしか割り当てられない可能性や、場合によっては全く割り当てられない可能性があります。この場合、上場後に日本郵政株式会社およびそのグループ会社の株式を取得するまでの間は、株式の組入比率が低くなります。
つまりIPOで十分な株数に当選しなかった場合、上場後に普通に市場で株式を買付けるということ。すると、上場直後に株価がピークとなるいわゆる“上場ゴール”になった場合、大変な高値掴みになる危険性があります。また、IPO当選者の中には上場即成り行き売りをして公募価格と初値の間の利ザヤをとる手法の人も多い。こうしたIPO投資家のカモにさえなってしまう危険性があります。

こうしたことを考えると、よくこんなファンドを作ることができたなと思います。金融庁が求めているフィデューシャリー・デューティーにも反する可能性があるからです。運用会社と販売会社は、お上の目が気にならなかったのでしょうか。あるいは、これは考えたくないことですが、日本郵政グループのIPOは日本政府による国家的な資金調達スキームなので、その成功のためには多少は無茶をしてもお上は見逃してくれるという読みがあるのではとさえ思ってしまいます。そう考えると、ますます日本郵政グループのIPOに対して嫌な感じを受ける。そんな嫌な感じをさらに増幅してくれるのが、この日本郵政株式/グループ株式ファンドでした。
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